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       羽衣伝説 異聞 ・・              

 投稿者: 広大  投稿日:2006年 5月22日(月)18時41分56秒
編集済
                                         - 02/ 4/ 4 掲載 -



  ばば様が 好きな歌でしてね 「はごろも」

 ばば様も 大ばば様からの聞き覚えだと云って 小さな声でよく歌っていました
 まあ ひよっと思い出しましてね 探していたのです


  で 暫くあちこちとウロウロしているうちに  なんとあ~た!

 キラキラ 沈みかかる陽を載せた波が打ち寄せる岩陰で フンワリまとった羽衣の端を丸めたり延ばしたり
 手でもてあそびながら 天女がどなたかと立ち話をしているじゃあ ア~りませんか!


  しかしですなあ なんたってあ~た あだじゃあシンシ(?) ですから ねえ ..
  立ち聞きなんぞする気は 毛頭ありませんでしたよ ホント

  まあ なにやら後輩が先輩天女を愚痴っている そんなぐあいの様子でしたがね .. (笑;




本当の事を云うと全国にたくさん羽衣の天女は舞い降りたし 三保よりちょっと西へいった宇渡浜へも天人は舞い降りたのに 三保の天女の話ばかりが羽衣の専売特許みたいになっちゃって 他の羽衣伝説のある地区の人には申し訳がないと思うの ..

 ごめんなさいね


インターネットやコンピューターの無い時代だっていうのに 物語・芸能の通信力・交通の要衝からの伝播力ってすごいでしょう
それに 旅の大衆化も大きな原動力ね 伝説も旅のお土産だということ分かってくれたかしら ..

結局 三保の羽衣伝説は常盤津・長唄・筝曲・落語から近代文学・近代絵画と あらゆる芸術・芸能・文芸の
ジャンルで話題になったし 日本の国民的な伝説になったわねえ ..


 でも それなのに先輩ったら天の国で大きな溜息をついて気落ちしているの ..

実はね 先輩の前にも三保に舞い降りた別の先輩の天女がいたの ..
『駿河風土記逸文』に 記録が残っているわ

で その彼女は 松の枝に掛けておいた羽衣を見失ってしまったの
それで天に帰ることが出来なくなったこの先輩は 三保の青年と結婚したのよ

でも後から羽衣がみつかったのね それで天女は天に戻らなくてはならなくなって 二人はお別れしたの
でも彼女のことをどうしても忘れられない彼は 仙人になって天まで追いかけてきたの ..

 モ~ び~っくりよ!
 さすがに仏様も二人をお許しになって 今では仲良くくらしているわ


そんな姿に憧れて天下りしたのに 三保の「伯梁」さんたら舞を舞わせただけで 先輩を帰しちゃうんだもの ..
手を握ってくれるわけでもなかったって 先輩泣いていたわ ..

自分に魅力がないせいだって すっかり悲観してるのよ
せめてもう少し羽衣を隠しておいてくれれば 先輩も気が済んだと思うんだけど ..


でも それが人間の国ではかえって美徳ということになって大事にされるんだから 皮肉よね
それ程人間の世界は 心が汚れているの?

それでも先輩ったら懲りずにもう一度天下りするって 仏様を困らせているの
天女が地上へ降りるのは巡り合わせだし この頃は空気も人間の心も汚れているから頑丈な私ならともかく 先輩みたいな華奢な天女は 死んでしまうわ ..

それに彼女 舞の妙手で最高の美人 舞を伝える天女はとても崇高で高貴な女性なの
でも かえって男の人は遠慮しちゃうみたい

たとえ時が巡って三保に降りたとしても 同じように舞を舞って帰されて また舞の伝説が一つふえるだけだと思うの ..
でもね 天女って いつまでも恋に恋する乙女で 名声よりも女の幸福に憧れるのよ

 えェ~? そんなに綺麗な人なら実物をみたいですってえェ ・・ 私じゃあ ダメだって? ..
      えェ えェ .. どうせ私は天女の中では おヘチャよ ..


でもね 残念ながら先輩に会えるのは選ばれた男性よ
あなたには悪いけど どう贔屓目に見ても実物の天女に会おうなんて望みが高すぎるわ ..

天女に巡りあう男性は仏性のある慈愛深い人格 高い教養 容姿端麗で働き者 これ全部クリアーしなきゃあ ..
その上に二人の巡り合わせがピタッと会って 初めて出会うのよ ..
あ でも財力には関係ないの

でも可愛そうだし 絵に描かれた天女 天女に出会える芸能があるから それくらいなら紹介するわ

「・・・」




          はごろも

         あれ天人は羽衣の 舞を舞いつつ帰り行く

          風に袂がヒラヒラと 羽根に朝日がキラキラと

           松原こえて大空の 霞に消えて昇り行く




  だからあ ホンの通りがかりに聞こえただけ ですってば .. (笑;

 でも ですねえ 天女に「おヘチャ」も居るなんて知らなかったし 死とか病なんて言葉 知らないはずの
 天上人も恐がる地上で生き延びているワダス達って ひよっとして最強? ..


.

http://pub.idisk-just.com/fview/FCvpOxhdvWPU7nrJwvUCA-WpqG9Xl7mOiTtwvCB2_LW1fCJfs4atkp5ELurJDprW-M5_Q6hO91c

 
 

       弱点は ..              

 投稿者: 広大  投稿日:2006年 2月28日(火)22時41分39秒
編集済
                                         - 04/12/19 掲載 -


わたしが知っている花を行商する女性では 私のヒゲよりナマズの髭の方が立派だと初対面で言ってくれた
もう二年ものお付き合いになる ばば様がいる

まあ ナマズの髭は純粋にナマズたる証の様なものであり 比べて私の髭は無ければ無くてもいい不精の髭で
-身綺麗にしなさい- と周囲からは叱られる口実になっているばかりで あまりこのヒゲで恩恵を被った記憶はない

なので 考えればナマズの髭の方を誉めたあのばば様は ちゃんと道理をわきまえた人生の先輩と仰がなくてはいけない人であり そういう人の言葉なのだと 後日納得した


時折ひょっこり顔を見せては -残り物じゃけ- と相も変わらず花鉢の世話をしてくれるし 湯沸室から茶道具を持ち出してきては 手酌(?) でゆったりとお茶を飲み 一休みしてから帰って行く

あれこれ世間話をするわけでもなく -ハイ さよなら- と去っていく後ろ姿は どこか飄々として 浮き世の生臭さ等からはすっかり脱っしきって それでいて矍鑠とした物腰からは年を感じさせず もし仙人などと
呼ばれる人が居るならば こんな風でもあろうかと思うことがある


あ 唐突でしたが 外出から戻ってみば ちゃっかり留守番をしていたあのレトリーバで 犬を引き取りに来られた隣家のご主人に -コヒでも- といった一言が運の尽き(?)となり その上手な話しに巻き込まれてしまいまして ..

 たしか -京都は好きな町で- と そんな話から 京の町に花を商って歩く「白川女」に話は飛躍し ..
 まあ あとから迎えに来られた奥さんに連れられ レトリーバと一緒に帰って行かれましたけれど .. (笑)

  で 残された私は 話の余韻で 花商いのばば様に辿り着いたと言うわけ で ..




  還らぬ男をひたすら待ち続ける 一途な女の哀感をセツセツと歌い上げた「泣ける歌」で
  -好きなのだ- と言い 気持ちよさそうに歌われるので 何回もサービスしちゃいました

  「また昼飯 差し入れするからさ」ですと .. 食い物には めっぽう弱いのです、あだぐじ .. ^^;

       - 隣のおっさんが好きな 泣ける歌「プサンハンへ帰れ」は 割愛いたしました -



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        護りたい・・               

 投稿者: 広大メール  投稿日:2005年12月27日(火)19時35分40秒
編集済
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   昭和二十年


     四月十一日  陽光 麗らかなり

     - 潔く立派に逝く -
     呟き一番機に向かう友の胸に 滑走路わきに咲いた野の花を飾って送った
     明日は俺だ
     死ぬ時が別になってしまったが 近いうち靖国で逢おう
     先に逝くお前は 大鳥居の桜を満開にして待っていてくれ




     五月十七日  風 爽やかにあり

     父上 母上、今より発ちます
     生をうけて 二十四年七ヶ月
     まさか 父上 母上より先に逝くことになろうとは思ってもみませんでした
     お母さん どうぞ泣かないで下さい
     -よく逝ってくれた-
     そう おっしゃって下さい
     私達は この国を必ず護ります
     そのために 征きます




     六月十九日  雨 未だ止ず

     幸か不幸か 今日も未だ生き延びている
     だが雨が上がり 茜が空一杯満ちるとき 俺は必ず征く
     後に続くことを信じ
     安らかな明け暮れの日々が 必ずこの国に来ることを信じて



         海軍○尉  徳○寺 ○○彦

               身長 五尺八寸四分
               体重 十八貫二百
                  意思 身体 きわめて健康

                - 同 六月二十三日 朋友六機を率い出撃 全機未だ帰投せず -




 日本国憲法

第2章 戦争の放棄

 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、
      武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

   2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
     国の交戦権は、これを認めない。




       沢山の .. 計り知れない多くの血と涙が書いた この条文である
       決して、決して この悲しみを繰り返してはならない ..





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         わかれ ・・               

 投稿者: 広大メール  投稿日:2005年12月17日(土)13時00分8秒
編集済
                                          - 02/9/20 掲載 -




 友が旅立って行った
 知らない街の名を 告げて

 行き詰まり 止まれぬ選択と言う ..





      久々を馴染みの席に向かいおり くち重き友に盃(さけ) すすめつつ



      愛は未だここにあるとぞ胸を指し 微笑(え)む頬寂し離婚(わか)れゆく友



      幾とせを親友(とも) の契りで今日もあり 言の葉むなし決断(こころ) 推察(おも) はば



      明日へ発つ友乗る電車見送りぬ 鉄橋のぞむ萩咲く道に



      尾花そよぎ茜に燃えし鉄の橋 遠のく響きうつむく吾は



      友はもう彼の辺りかや茜雲 尾花の道もどる振り返りつつ



      澄みわたり暮れゆく宙は遥けくも アキアカネの舞う茜に溶けて
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         恋しい ..             

 投稿者: 広大メール  投稿日:2005年12月 8日(木)13時45分29秒
編集済
                                         - 04/08/12 掲載 -



 「それ」は、諏訪大明神の御使いである八百八狐達が守護する神の器と伝えられ、ひとたび変事勃発の折には
 将「それ」を頭上に戴けば 下は足軽の一兵卒までが あまねく大明神の神通力により守護されて、百戦も危惧
 無く勝利を得られると、固く信じられていた

 信心深く 常より大明神への帰依を念じていた 武田信玄であったがゆえに、その功徳により夢枕に立った諏訪
 大明神より授けられたと伝わる秘宝であり、代々武田の家を守護するかけがえのない神器と崇められていた

  「それ」こそが 「諏訪法性の兜 (すわ ほっしょうのかぶと)」 と 呼ばれる兜であった



  ここに 一組の男女が居る ..

 男は武田信玄の嫡子「勝頼」、女は上杉謙信の愛娘で「八重垣」という

 二人は隣国である両家友好の証として それぞれの家同士が決めた婚約者同士であったが、当時の習い通り
 互いに一度の面識も無かった

 が しかし老獪な謙信は、戦国の世の常として 例え婚姻が成立し縁戚となった後にでも 何時か武田方に
 攻められるのではないかと言う危惧が、頭から離れなかった

 ましてや 不敗の「諏訪法性の兜」を家宝とする武田であれば と、その心配は日に日につのっていった

 そこで謙信は、縁戚になる仲の証として 近くで拝見したいと申し出て、武田家より「諏訪法性の兜」を
 借り出したのであった

 門外不出の秘宝ではあったが、やがては舅になる謙信の たっての頼みとあれば無碍にも断れず、快く家宝を
 貸出した勝頼ではあった
 が、一年経ち、二年が過ぎても 謙信は 一向に返してよこす気配を見せなかった
 それとはなく返済を迫る勝頼に、あれやこれやと 言を左右にして応じない上杉

  やがて両家の間は猜疑心を仲立ちに 険悪な様相を呈することになり、これが発端で後のもろもろの争いを
  引き起こしてしまう事態にまで なっていったのだった



  その頃、上杉の居城である諏訪城に「箕作(みのさく)」と名乗る男が 庭師として住み込んだ

 成り行きは定かではないのだが ひょんな事から「箕作」を遠目にみとめた「八重垣姫」、その職人とも思え
 ぬ身のこなし、気品、他を圧する気配に、仄かな恋心を抱くようになっていた

  何とか口実をもうけ、やっとのこと「箕作」と親しく口を利く機会をえた「八重垣姫」ではあったが
 「箕作」の口から出てきた言葉は、「諏訪法性の兜」を盗み出して欲しい と、恐ろしい話しであった


  話の経緯から、彼が「兜」を取り戻すべく身分を隠して城に住み込んだ武田の人間であることを悟り、
  それどころか、彼こそが自分の許嫁である「勝頼」であると告げられた姫は、さらなる熱い恋心を
  燃やすのでした


 やがて謙信も、ひと際の気品を備え 万事に手落ち無く事を進めていく「蓑作」を認め 武士に取り立てはした
 のでしたが いよいよただならぬ人格に、それが「勝頼」であることにも気付いたのです

 そうと判れば 潜入の目的は火を見るよりも明らかで、「兜」を返したくない謙信は密かに「箕作(勝頼)」を
 亡き者にしようと企み、ある日「箕作」を 自軍の砦である塩尻の軍陣に向け 手紙の使者に出したのでした

  兼信が「箕作」に託したその手紙には、「この手紙を持参せし者を 直ちに抹殺せよ」と 記されており
  勿論、後からも追手を差向け 途中で暗殺してしまおうという計画でもあったコトは言うまでも無かった

  「箕作(勝頼)」は、我が命を消そうとする 恐ろしい陰謀が隠された手紙の使者に発ったのでした


  が、これを知った八重垣姫の驚きは 気も狂うかと思うほど、なんとか追っ手の先回りをし「勝頼」に
  この危機を知らせたいと気を揉むのでしたが、折から諏訪の湖は既に厚く凍てつき 早舟を出すことも叶わ
  ず、首尾よく城を抜け出し陸路を追ったとしても 姫の足などでは到底追いつける筈もない

 あれこれ 切羽詰った思案はするものの妙案などは思いつく筈もなく、刻々と恋しい人に迫る危機を思えば
 正気さえ失いかける姫でありました

 やがて 我が身を切りさいなまれて迄も 恋しい人を救いたいと苦悶する姫の一念は、思わず床の間に飾られて
 あった「法性の兜」に 手を延ばしたのです

  しかしそれは 敬愛する父の意に逆らうことであり、ともすれば上杉の運命をも 左右しかねない事でも
  あったのでしたが ..

  それでも姫は愛しい男のため 我が身の命と引き替えに と、「兜」に苦しい祈りを掛けたことでした



  すると あろうことか、あるまいことか ..  ^^; ..

 寒気に霞み 彼方を見通すことすらも困難なほど広く結氷し 暮れて行く諏訪湖上に、ポッ、ポッ、ポッ ..
 次々に青白い狐火が灯ったかと思うと、たちまちの内に 恋しい人まで一直線の道が開らかれ ..

 蒼白く瞬く情念の炎が両側を守護するその道を 疾風のように駆け抜けて行く、兜から現れて銀の毛をもった
 神狐の背には、片手に「法性の兜」を高くかざして揺られてゆく 姫の姿があったのでした


 こうして彼女は 無事「勝頼」を救う事ができたのですが、諏訪大明神の思し召しとあれば さすがに逆らい
 難く、武田、上杉の両家は改めて和睦を結び、二人はめでたく祝言を挙げたことでした



    戦を司る大明神も 恋する女性の一念には

     「しゃあ無いなあ .. まあ、いっかあ .. 」  と、言うお話し ..


       はい、御退屈さま .. ^^ ..



 このお話しは 能や歌舞伎を始め、数多くの舞台や小説の元話として 既にお馴染みの方も多いと思いますが、
 時の流れになどには左右されることのない恋情の健気さを伝える話しとして、お年寄りから聞かされたままに
 書いてみました ..

  上諏訪、湖畔公園に遠浅の「ふれあいなぎさ」と名付けられた処があり、その岸より少し水に入った処に
  石像となって「八重垣姫」が、今もおわします

   あ、来て下さったあなたに敬意を表して、今は恋しい彼ではなく あなたの方を向いていますが ..
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        ある出会い ..          

 投稿者: 広大メール  投稿日:2005年11月19日(土)19時16分29秒
編集済
                                            04/07/28 掲載



 その部屋は、大きく重い襖で仕切られた母屋の幾つかの部屋の南に面した部分を繋ぎ、最奥の部屋の前で突き
 当たりかと思えば またその部屋の西側を巡り さらに突き当りの奥に便所の引き戸が見える手前から、 なお
 同じ畳表の敷き込まれた広縁の幅で西に折れて続く 廊下で繋がれており

 桂林の山々を模したのだという大小の石の間に高く低く配置された庭木に隠れ 母屋からは枝越しに見え隠れ
 する位置であったが、母屋の庭からは矢来に組まれた竹垣の袖にある中木戸をくぐれば 離れの庭には視界を
 遮る石や植え込みなどは無く 一面をよく刈り込まれて芝の緑が底となり 広がっていましたし

 流れの中に白く小さな梅花藻が咲く表通り添いの幅広水路と庭とを隔て 上げた腕の高さをも越えたカラタチ
 の生け垣沿いに数本、芝生の中央ほどにも三四本、屋根も棟に届くかと思われる高さで葉を茂らせた白樺が、
 カラカラと葉音をさせ 光の輪が揺れる木陰を作っていた

 百年を過ぎているという古めかしい部屋々々の母屋や 同じ様に古色な容貌で連なる近隣の建物の中に、洋風
 に似せてしつらえられた外観を持つ離れのその建物は ひときわ異質な感じで佇んでいたのでした

 廊下の終端になった広縁に面する雪見障子から手前の和室を通り抜ければ 先の部屋は黒光りする分厚い床板
 に これも見知らぬ遠い国の織り柄でもあるような古びた絨毯が敷込まれてあり、南には床と同じ高さで芝の
 庭に突き出た 板張りのテラスへと大きく開け放つガラスの折り戸、西の壁は その壁の半分ほどが 子供の腕
 では窓のガラスまで届かぬ程の奥行きで 天上までが出窓になっており、外には腰高のガラスにまで届くほど
 の高さで クチナシの白が茂っていた

 北壁の一面と西壁の一部に 天上の高さにまで作り付けられた書架は白布で覆われていたが、同じ白布で覆わ
 れていても他の家具類を威圧し 書架のそれを背に庭の白樺を望む位置に 古風なステンドグラスのシェードを
 目深くまとったスタンドを載せ、赤黒く磨きこまれてローズウッドの大きな両袖の机があった

  父の里である家のその部屋に ばば様の案内で改めて通されたのは中学生になった年であり、夏休みも
  始まったばかりの日の ことでした

 勿論 それ迄にも両親と共にこの家には幾度と無く来ていた筈であったし、微かにではありましたが母屋には
 家具や調度品に見覚えのある部屋もあり、訪れれば きっと父のその部屋で寝起きをしてい筈なのでしたが
 どんな事情なのか、その場所に立ってすら懐かしさに似た気配などは 朧気にも思い出すことが出来ず

 両親が去ってのち私の親権を争い 母方の里とは気まずくなっていた父の里でありましたが、一人で出歩ける
 様になってからは時折訪ねてもいたし 行けば その家のばば様にも喜んで貰えたので、わりと気安く出入りを
 してはいたのでしたが、その部屋での記憶ばかりが 何故か途切れていたのでした

 父の父 つまり父方の爺様は父が中学生のころ癌疾により少ない余命を宣告され、残された時間を過ごす為に
 作られた離れであり、爺様が急逝してからは父がこの部屋の主となり 母との結婚までをこの部屋で過ごして
 居た と、

 「今日からは広大が使ってくれるといいがねえ .. 」
 テラスで白樺に見とれていた私に 聞こえよとばかりの声で呟き、被いの白布を取り除きながら父のばば様は
 話しをしてくれたことでした

 そんなワケで、私が「啄木」に出会ったのは 白布の被いが取り除かれたその書架でのことであり、 黄ばみ
 から茶褐色へと時の経過を克明に記し プンと古い紙の匂いまでもを蓄えたその本には、それまでにはあまり
 接したことの無く聞きなれぬ言葉や 不思議な感覚の表現が伝えられており、しつこくばば様を追い回しては
 その語意や言葉の使い方を聞き学ぶのが その頃からの楽しみになっていたのでした

                                      - イカ割愛シマシタ -



                     「流されて」Ⅵ - 愚鈍のつぶやき - 啄木とのであい から
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http://pub.idisk-just.com/fview/hRCno0-QX8pj9cp7dDiorFmE2egl7DfIYDCLMXAcT8QUwfBphVrobnxaXiKd5qKJ

 

        山 から ..           

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 9月 8日(木)20時12分25秒
編集済
                                             03/10/ 2 掲載


      メルが 来ましてね
      例年 この節の恒例でもありましてね、リンゴ畑に行って来ました

       やはり結実期の長雨には受けた影響も大きい と 話しを続けながら
       まだ緑の色が濃くても、たわわと思えるほどに実をつけ

       山肌の斜面に 行儀良く立ち並ぶ木々の間を 先に立ち 案内する友人は
       所々で赤く輝く幾つかを 収穫してみせて

       お客様には 出来の悪い実を買っていただくことになる と、口惜しげな呟きでした


     それでも試食テーブルの隅にある 剥皮の入った皿には
     今年も 沢山の蜂たちが 群れており

      私のために選んだ一つを剥く友人の、その無骨な手のナイフからは
      マジシャンの手から流れ落ちる 紙テープのように
      スルスルと途切れることなく、帯になった剥皮が垂れ下がってゆき

      テーブルを挟んだ椅子に 陣取り
      誇らしげに白い肌を露わにしてゆくその果実を 頬杖で見つめる目の前に
      羽音高く飛び交う めざとい蜂たちは

      等分に切り分けられ、並べられたガラスの大皿から
      くちに運ぶ一切れにまで 分け前でも強請るように、追跡をあきらめず

       庇の端から差し込む陽に キラキラと羽を煌めかせて
       さほど遠くはなくなった寒い日に 備えを急いでいる様でした ..



        いま 部屋のカウンターから私を見下ろす 土産にと渡されたリンゴ達は
        その 一つ一つが 日焼けした友人の笑顔であり

         また来いや と、叩かれた肩の 感触なのです ..
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        あれや これや ..               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 8月 6日(土)23時41分29秒
編集済
                                           - 03/2/3 掲載 -


     あ さっき、通りに沿った五軒ばかり先の和菓子舗さんから

      「二月はこれにしました」って、「豆大福」が届きましてね.

     事務所への来客時、
      「お茶、お願いします」 そう、電話をするお店なのですが ..


   季節に合わせた趣の皿に盛られた菓子を人数分と 茶器を揃えてまでの出前で、ちゃんとお茶まで
   煎れていってくれるのです.

    事務所開設当時から 来客の度に茶の菓子を買いに行っていたのが縁でしたが、いつの頃からか
    うちの「お茶係り」を 引き受けてくれている お店で .. (笑


   「広大さんとこの不味いお茶でウチの菓子食われたんじゃ たまらねえからな、あっはっは」

     そんなコトを言ってくれる ご主人なのです.


   しかしまあ、出前がご主人でなければ問題は無いのですが、タマタマご主人の出前だったりして、
   タマタマ そのお客が

   「いい お茶碗ですね」 なんて褒めようものなら ..

    待ってましたとばかりに「器の講義」を始めるのところが、この人の難点ではあるのですが.
    「お茶碗収集」が趣味の、この和菓子屋のご主人なのです.

      ええ、なかなかイケますよ 豆大福 ..



   午前中から おいでおいでと景気よく花火も上がっていますし、せっかく外塀までをも紅白の幔幕で
   飾り付けがしてある様ですから、ちよっと様子を見てきます.

     裏通りの寺、「豆撒き」なので ..
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        居残り の記 ..              

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 8月 4日(木)23時24分10秒
編集済
                                           - 03/5/4 掲載 -


   世間の大方は、長の休暇中である.
   さすがに少ないのですが、それでも5.6本電話の応対を終えてみれば10時もだいぶ過ぎた頃 .

   朝から3回目のサイフォンに火を入れ、なんとか言うクリームを挟んだ菓子を二つ三つ口に放り込んだ
   ことまでは、覚えていたのてすが ..


    ふだんの要領の悪さを棚に上げ 我が身の能力を過信した結果が形となり、目の前には幾つもの山と
    なった未処理のあれこれ.

   窓の外を通り過ぎる 華やいだカップルたちを横目に、まあ 亀は亀なりと人の休みを良いことに なんと
   か遅れを取り戻すべく、溜まりに溜まったあれやこれやと格闘を続け 時計はすっかり意識のそと.


   独りの事務所は調光器が勝手に点けた照明にも何時のことか記憶になく、迫り来る限界間際の生理的欲求
   にようやく我に返えり、背伸びをしながら覗く窓の外では 幾日か出番が無く、所在なさげにもう投光器
   の白い光をあびて駐車場の車たち.

    ついでに顔まで洗い、手を机にエビ反りに伸ばした背と腰からは軋みの悲鳴が聞こえそうであった.


    ようやく身体に意識が戻ったとたん、早速なおざりにされた胃袋からは
    「どうして呉れるんだぁ」 とばかり、苦情が出てきた.


   外してあった腕時計をとれば、既に21時も間近い.
   が、行きつけの定食屋閉店の22時までにはまだ余裕と、オーダーの受話器を取り上げて 気が付いた.

    机上を無影にするために両側から照らすスタンドのアームに貼られた 一筆書きの魚に
    デカイ×印のメモ、 間違いなく3日.4日.5日 と朱記してある.


    連休前日の退社時、
    「どうせ、忘れるのでしょうからねえ」

     笑いながら、番頭さんが魚好きの私をからかい半分に貼ってくれた 気遣いのメモであり、
     馴染みの定食屋が臨時休業する三日間であった.

    東京の娘夫婦に招ねかれて、「 歌舞伎を観に行く 」と 嬉しげに話していた定食屋の日焼けした
    オッさんの横顔に、ブツブツと苦情を並べ続ける胃袋とがダブり ..

     まあ帰宅すれば何かあるはず .. が、帰ってはみたものの何も無かった.


    非常時の頼りは身内の台所なのですが、里までには少々距離があり 従姉妹のところも とおに夕食は
    済んでしまった時刻だし.

   そこで気が付いたのが、今をさかんのテレビCMでお馴染みコンビニ弁当 ..
   ではありましたけれど タバコに飲み物ぐらいでしか利用したことは無いし、この時間この年で弁当を
   買うというのは いかにも恥ずかし.

   と言うことで今朝、開店時間を待ちかねて駆け込んだ 駅構内の立ち食い蕎麦は、一日半ぶりの食事.


  ま 昨夜、あの時間でも営業中の食事処は幾つもあったことでしょうが、知らない店に入るのには もう一つ
  勇気の出ない 人見知り(?) の、わだすなのです ..  ^^; ..


     さってえ、今夜は何処で ..
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         男 と 男 のこと ..            

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月29日(金)00時16分1秒
編集済
                                           - 03/05/15 掲載 -


   私の記憶の中に生きていたその人は、強い男でした.

  人一倍強い正義感を湛えた大きめのキラキラする瞳は どんな相手にも真正面から向かい合える人でしたし
  「友は宝」と言う口癖に反せず 友情のためには臆せず火中の栗を拾う様なことも出来る人でしたが、

  夏期休暇の幾日かを 招待した私の里で寝泊りを共にしたこともあった彼は、姉妹達の前では顔を赤らめ
  一段と無口になってしまう様な反面をも持った男でした.


  二つ三つ年上ではありましたが 時には十も十五も上かと思えたこともあり、折にふれて私を振り返る瞳は
 「どうした、大丈夫か」と言わんばかりで、親兄弟のない同じ境遇の私を慈しみ励ましてくれたことでした.

   私には無いものばかりを持ち合わせたその影はいつも数歩前にあり、どんなに足掻いてもその影には
   追い付くどころか歩数を詰める事すら出来ませんでしたし、そんな男を時に眩しく 羨望の思いで
   見詰めるのが その頃の私でした.



   肴の小鉢がいくつか並んだテーブルを挟み、無言で干しあう盃でした.
   いつしか途絶えた音信の日々を数えれば 十年にもなろうとしていたつい先日、突然のうれしいTELで ..

  私が知っていたその人は男にしても大柄であり、溢れる気迫が全身から感じられるほど精悍な印象の人でし
  たが、頬骨が目立ち 額には幾本もの深い皺を寄せ 猫背気味に盃を口に運ぶ いま目前のその人からは、
  まるで初対面でもあるかの様な印象すら受けたことでした.


   かって遠い街の 駅から間もない道玄坂近くの事務所で、何年かを共にした男でした.

   四十の声を間近にすれば「腹を括って」乗り越えてきた世事も 一つや二つでは無いことぐらいの察っし
   は 容易につくのですが ..


   覗き込む私の視線を避けるように、かっての輝きをすっかり失ったその瞳は
   「聞いてくれ」 と言っているようであり、また
   「何も聞くな」 と言っているようにも思え ..

    呑むほどに芯から醒めていく盃は、交互に酌み交わす数だけが増え

   「ただ、顔が見たかった」
    そう笑う口元に 強がりの自嘲めいたものを見た思いでしたが、せっかくなら里へとの招待も断わられ
    私の部屋でごろ寝となった早い朝

   「仕事があるから」
    と帰って行った車の後姿を見送りつ、なにやら鼻水まじりの水玉が止めどなくこぼれたことでした.
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         月を詠む              

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月27日(水)22時02分51秒
編集済
                                             - 李白の月 -




     月は 誰をも、何処にいても、寄り添うかの様に 優しく包んでくれます

       李白にも月は親愛な友人でありましたし「月下獨酌」では酒の相手も ..




   花間一壺酒  花間 一壺の酒      - 花の間に 酒壷ひとつ

   獨酌無相親  獨酌 相親しむ無し    - 独り酒を注ぎて飲み、ともに楽しむ相手はいない

   擧杯邀明月  杯を擧げて明月を邀へ   - 杯を挙げ、昇ってきた明月を迎える

   對影成三人  影に對して三人を成す   - ふと振り返れば、自分の影に向かいあわせて三人連れ
                        (吾と月と影)となった

   月既不解飮  月 既に飮むを解せず   - 月に 酒を呑ませることも出来ないし

   影徒隨我身  影も徒に我が身に隨ふ   - その上 影も、ただ私のあとに隨いてくるだけ

   暫伴月將影  暫く月と影とを伴ふ    - しばしの間、月と影とを伴として

   行樂須及春  行樂 須く春に及ぶべし  - 春を逃さず 楽しまなくてはなるまいて ..

   我歌月裴回  我 歌へば 月 裴回し   - 私が歌うと 月も天空で揺れ動くかの様 ..

   我舞影零亂  我 舞へば 影 零亂たり  - 私が舞うと、影は散り乱れ

   醒時同交歡  醒むる時 同に交歡し   - まだ 酔ってしまう前は、一緒に歓びを交わすのに

   醉後各分散  醉ひし後 各の分散す   - 酔ってしまえば 皆んな散々 ..

   永結無情遊  永く結ばん 無情の遊   - 面倒な人の情は抜き いつまでも交遊を結び

   相期雲漢   相期す 雲漢のかなるに  - 天の川の 遙かなるあたりで、再会をしよう ..




       私情 私感を避けるための 直訳です

        あなたの感性が、きっと素晴らしい詠に仕上げて下さる事でしょうから
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        いやあ ..             

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月19日(火)20時06分14秒
編集済
                                           - 03/6/8 掲載 -


     昼の池に浮かぶ月 .. 言い得て妙とはこのことでしょうか ..

      月は、地にもあったのですねえ ..

       毎度のことながら、するどい感性をお持ちでうらやましい.


   あ、先日 初めてのデジカメ、手に入れましてね.
   以前 知り合いの結婚の引出物で貰った と言う友人から、さらに貰い受けた物なのですがね. (笑

   これが30マン画素と 昨今流行のカメラ性能にしては随分と見劣りはしますけれど、掌に隠れてしまう
   ほどの優れもの(?) でして、CASIO LV-20 とボディには書いてありますが.

   早速の一枚は 事務所の連中を標的にして だったのですが、非難ゴウゴウと言う結末に ..
   ええ、デジタルでこそありませんでしたけれど 前述のカメラ熱病に犯されていた学生のころ、拝み倒し
   モデルにした身内からさえ苦情が耐えなかった 痛い記憶が蘇り ..

     まあ、今回もカメラの所為にはしてしまいましたけれど .. (笑

    それでも解像度の悪い低性能が成せる技でありましょうか、別途のフィルターを購入すること無く
    ソフトフォーカスに仕上がる絵には、わたぐじなりに そこはかとない満足感もあるのですが ..


   200から250マン画素くらいの性能が、ほぼフイルムと同等の仕上がり なのですってね.

    人見知りと云いますか、食わず嫌いといいますか ..  ああ、メカオンチ か ..
    ま、何れにしてもソレ等のクセの強いワダスがこのメカに馴染む迄には、結構な時間が必要 ..
     な、予感 .. (笑

      呼ばれた携帯電話を扱うにも、モタつく始末ですしねえ .. ぁぃ..





      -「昼の月夜」と題し 睡蓮池に開いた大輪で、構図の良い写真を戴いたスパイクさんへのレス -
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        ・・・               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月15日(金)19時22分21秒
編集済
                                           - 02/12/10 掲載 -




                           散りいそぐ花もある
                           咲き残る花もある
                           吹く風は同じでも
                           花 れぞれに 花のいのち




                           歓びのうたもある
                           哀しみのうたもある
                           弾く人は同じでも
                           うた それぞれに うたの調べ




                           花ひらく夢もある
                           崩れ去る夢もある
                           人の世ははかなくて
                           人 それぞれに 人のさだめ





     - 音はお任せと おっしゃるあなた .. -
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        香り ..             

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月15日(金)18時42分19秒
編集済
                                           - 02/12/12 掲載 -



   ふっ と霞んだキーボードの文字に 疲れてきた両手で顔を覆い、両の中指で目頭をそっと押してみる.
   疲れたとき、人前でもうっかりやってしまう 私のくせ.

   スタッフの出払った静寂を軽快なBGMが流れ、回した椅子の足下に眩しく広がる窓からの陽射しは壁の
   大きなホワイトボードに反射し 高く周囲の壁に掲げられた幾つもの写真までが 白くひかり 浮かび.

   衝立に囲われた片隅で、その幅一杯にくわえたフイルムに黒くインクのトレースを続けるプロッターは
   時折忠実げに チーンと小さな音で あるじの居ない椅子にページ毎の書き終わりを 告げ


   雪晴れに光る 透明なガラス窓の外に溶け残った雪は 夜明けの寒さにその結晶をさらに膨らませ、凍てた
   ガラスを押し開けた手の甲を 一瞬チカチカと飾り 名残の雪水が肌を伝う冷たさに 思わず目を閉じる.


   かき寄せられた小高い雪山が並ぶ歩道から、背負った籠に姉さん被りの日焼けした顔がひょこと現れ
   顔中の深い皺を緩ませながらも、その姿からは意外に太く 張りある声がとどく.

    「 わしゃ 水仙ばっけし じゃがのぅ.. 」

   ばば様が差し出した蔦で編まれた取手の下げ籠には、開花を間近の水仙の小鉢が 3つばかり.

   見えなくもハッキリそれと判る香りは、背負った籠から漏れて来るらしく 窓からの首をのばしてみる.


   歩道に出てからも振り返り ちょこんと頭を下げたばば様に、中咲きの香りを両手のまま 会釈をかえし
   すっかり奥の方までにも伸び 一段と明るくなった陽射しの部屋に、たまゆらの花の居場所を目で探る.



     遅めの雪模様に、部屋はちょっぴり気の早い 春の香り.





                   - この日、花売りのばば様との出会いでした -
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        ・・・               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月15日(金)18時22分26秒
編集済
                                           - 02/12/27 掲載 -




      子守うた のうた



            いつかどこかで見た夢は 粉雪の舞う落葉松の
            梢をわたる風のこえ ホロロ ホロロと唄います


            いつかどこかで見た夢は 真白に涯なき雪の野に
            降りて輝く星屑の チカリ チカリと誘います


            いつかどこかで見た夢は 真冬の空を独り行く
            青い衣の三日月の キリリ キリリと渡ります


            いつかどこかで見た夢は 幼き日々の子守うた
            鼓膜の奥に木霊して ユララ ユララと流れます


               今は聞こえぬ子守うた 鼓膜の奥に木霊して
               ユララ ユララと流れます

               鼓膜の奥に木霊する 今は聞こえぬ子守うた
               野辺の送りを子守うた ユララ ユララと流れます





            - 音はお任せとおっしゃるあなた、曲を付けて下さるとうれしい -
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        終った告白             

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月10日(日)14時49分34秒
編集済
                                          - 04/1/22 掲載 -


   両脇腹のあたりに大きめの飾りボタンが五つずつも付いているのに 色合いは渋めのエプロンで、
   店を手伝っている娘さんだった.

   バイトの学生でもあるのだろうと気にもならなかったが、ここの主人との会話を聞けばどうやら
   バイトでもなさそうである.

   度々の押し掛けですっかり顔見知りになった私にも親しく口を利くようになり、更に知人でもある
   この花屋の主人との関係が他人ではないことを知った.

   詮索と言う程のつもりでは無かったが 話を向けた私に、舗道にまで出張って並べられた鉢の前で
   客の相手をしている知人の方をチラチラ見やり、こんな話をしてくれた.



 ある所に、女の子がいました.
 近くで花屋をしている叔母の店が遊び場所だったその子は、花が大好きでした

 やがて女の子は高校生となり、同級生達がそうであった様に「恋ごと」に夢中 ..
 にはなるコトもなく、親が嘆くほど異性には興味を持たない子 に、育っていたのでした.

 が「物好き」は何処にでも居るもので、ある日この学校の先輩でもう大学卒業も間近という男性から
 愛を「告白」をされたのです.

 おそらく 普通に告白されただけなら動揺すらしなかったはずの女の子でしたが 一緒に渡された白いチュー
 リップに目を引かれ、直ぐには断れなかったのでした.

  とんだ「花バカ」だったんですね、あはは ..
  低温ケースの花達をガラス越しに覗き込み、その人は照れくさそうに笑った.


 もちろん家に帰った女の子は、ワクワクしながら白いチューリップについて調べ始めました.
 追試の常習犯でもあるクセに 花についての勉強だけは寝る時間も惜しんで ..
 まあ、そんな呆れた子だったのです.

  常の客でもあるのだろうか、通りの人に愛想よく笑顔で会釈をし 話を続けた.


 チューリップのページはすぐに判り、読むうちに少し太めの文字の花言葉が目に留まりました.


 チューリップの白 :「失われた愛/失恋」
 その花言葉は、異性にはそれ程の興味を持たないその子でも少なからずショックを受けるものでしたが、
 その時になり「告白」されたコトを思い出した女の子は思わず吹き出してしまったのです.

  「告白」にこの花を持ってきた時、すでにかの男性は「これからフラれます」、そう言っていたのかと
  思ったからで、なんとも潔い!、しかも面白い!、そう思った女の子は ..
  結局、その男の子と付き合う様になっていったのでした.


 後で聞けばそんな花言葉などはさらさら知らなかったらしく、ただ その女の子が友達に「白い花」が好きと
 話していたコトを思い出したからなのだと.

  男とはそういうものなのかと 半ば呆れもしたのですが、男の家が花屋と聞いて二度のびっくり.

 そんなくだらない始まりから大学時代を経てズルズルと、未だに「終った告白」をした人と続いていたりする
 女の子なんです.


  そう話し終えてコロコロと笑い、「女の子」は入ってきた客の応対に出ていった.



  チューリップ(白)

   花言葉 : 失われた愛
   花占い : 素直で明るい人、たくさんの人に愛されています。
        あなたにとって恋は繰り返すもの、その気持ちが純真なだけに相手を深く傷つけてしまう
        こともあるでしょう.
        けれど、あなたが求めるのは常に誰か一人だけ、それを自分で見極めていけば大切な人を
        傷つけずに済むでしょう.




                          - 流されて partⅥ 《おっさんが語る花物語》 -
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        花づくし               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月 8日(金)19時32分28秒
編集済
                                           - 05/2/27 掲載 -


  それは 幼かった私の目から見ても、とても古い物だと思われた.

  内裏の二人にも 官女や武官・供揃えの小者達の白い顔にも 傷こそは無かったが、その煌びやかであったろ
  う衣装には 折皺に添って、細かな糸のほつれを見たからである.

  しかし それらは代々里に伝えられた 人(?)と物達であり、年にいちど未だ浅い春の幾日かを土蔵の暗がり
  から明るい日差しが障子に映える部屋へと、お出ましになる方々であった.


 姉妹や従姉妹、親戚の子供達が神妙な顔つきで遠巻きに居座り見守る座敷なか、知恵の輪の様な複雑に刻み込
 まれた溝を持つ太さ長さの違う沢山の角材や、様々に巾の異なる板を不思議な早さで雛壇に組み立ててゆく、

 いつもは庭で植木や草花の世話をしている紺色の細身の股引に黒い足袋を履いた見慣れた姿のお爺さん達の手
 元を、初めのうちは神妙であった子供達のどの顔も やがては鮮やかなマジックの世界に引き込まれでもした
 かの様に、ポカンと見つめていたことでした.


 組上がっていく雛壇と同時に手前の部屋では ばば様の声に、叔母達や親戚の女手で大きな木箱が幾つも開け
 られ、幾重もの和紙の包みを解かれて 眩しそうな雛たちが、一体 また一体と化粧直しに忙しかった.

  やがて部屋一面に緋の毛氈が敷き広げられて、縁先で黒足袋のおじいさんに形を整えられた桃の枝が
  壇の両脇に据えられた.


 御神酒と御膳を済ませ、ご祝儀とお酒の瓶を下げたおじいさん達が帰って行く頃には 雛たちも居心地良さそ
 うに それぞれの座におさまり、ばば様が灯を入れた壇より少し手前に据えられた 楕円をもっと押しつぶした
 形で、桜の花びらを象った雪洞の明かりが うすく毛氈に揺れる時刻になって、それはようやく一段落するの
 でした.


   節句(雛祭り)の朝、壇の前の毛氈には小型のデコレーションケーキの入った 白い手提げの箱が並び、
   前室の座卓には雛壇に向かい合って大きな座布団に ばば様が座っていた.


  一番乗りは、いつも次姉だった.

  座卓を挟んで ばば様の前に座り、
  「ばば様、おはよう」

  「はい おはよう、今日はおめでとうさん .. 箱を取っておいで」
  「ありがとう」

  雛壇の前に並べられた箱の中から 自分の名前が書いてある箱をとり、座卓へ戻ってくる.

  「はい、おあがり」
  ばば様が、白酒(実際は甘酒だった) の茶碗に ふんわりと咲いた塩漬けの桜花を浮かべて出してくれ 茶碗
  の脇には、「○○ちゃん」と 宛名が書かれた紅白のプチ袋(お小遣い) が添えられていた.


  「おかわりちょうだい、ばば様」
  もぐもぐと桜花を噛みながら おかわりの白酒をすすり、長々ばば様と話込むのは すでに大学生になってい
  た上の従姉妹であったし、その白磁の様な白く透き通った茶碗の脇にもちゃんと ボチ袋が置かれていた.


 ばば様の和服の膝にちょこんと腰を掛け、脇に置かれた風炉で暖められている甘酒を汲んだ茶碗に 卓上の小
 型の壺に漬けられた桜花を挟みだし、ぽとりと赤くしるしを咲かせるのが 幼いこの日の私の役目でしたが

  六歳に成った年にはさすがに膝の上は恥ずかしく、ばば様の脇に座布団をしつらえて貰い 相も変わらず
  白酒の ぴかぴかした水面に桜花を咲かせる花守を つとめてはいた.

 入れ替わり立ち替わり ばば様の前に現れる着飾った娘、孫娘、姪や身内の女達で、多い数では三十にも近く
 その白い箱が並べられた年も あったことだった.


   小さくても 可愛らしく飾られたケーキの上には、それぞれ名前が書かれたプレートも付いていたし、
   不思議なことに 男の私の名前が書かれた箱もあった.

    思い出したことに ばば様は、デコレーションケーキを「花づくし」と 呼んでおりました.



  「あら いやだ、ホッホッホッ .. 」
    昨年 暮れの挨拶に里へ出向いた時のこと、やはり挨拶に来ていた叔母の四人と鉢合わせをして
    しまったのです.
    それも折悪しく(?) 古いアルバムを持ち出しては、昔話の諸々を肴に談笑の真っ最中で あった.

  「噂をすれば影って 本当ね、ホッホッ .. 」
    叔母達と 後から加わった里の従姉妹達は、立ったままの私を代わる代わる見上げては 笑い転げた.




  古い写真でした.

  タートルのセーターらしき物の上に、花模様の着物を着付けられて赤い帯までも結び、髪を花飾りの付いた
  輪ゴムでちょんまげに結わえられたあだぐじが、雛壇の脇に行儀良く並んで座った華やかな着物姿の姉妹や
  従姉妹に挟まれて 写っていた.

  「広大がね、みんなと違うってグズったのよ、ホッホッ、だから、ホッホッホッ .. 」
  「そうそう、ホッホッ .. 」

    どうやら若かかりし頃の この叔母達の仕業らしくはあったが ..
    はい、女ばかりの里では すっかりチン(?)獣扱いの わだぐじで ありましたから .. (笑)


     今日、図らずもラジオで 何方かが話して居られました.

     「母は"花づくし" って呼んでいましたよ、デコレーションケーキを .. 」

       思わず一時 聞き耳をたてて居た 昼時のことでした.
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        ベージュのベンツ は ..                

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月 8日(金)18時55分56秒
編集済
                                           - 03/2/22 掲載 -


   なんでこんな処で? .. と思える様なところで、でっかいベージュのベンツを 引き上げた.

   そろそろとウィンチを巻き上げれば、爪の付いた車止めは路面に踏み固められて凍りついた雪を削り、
   こっちのジープがズルズルと引き寄せられて行く.

    周りにジープを固定できる様な手頃なアンカーは無いし ..

   ものは試しと、同行のパジェロとデリカを数珠繋ぎのアンカー代わりにし、なんとか引き上げるまでに
   2時間半を費やした.


  「世話になったな」
  そう言う人の顔をマジマジと見れば、着ている物はありふれたスキーウェアだが一見して判るその筋の人.

  無言で後片付けを始めた私に
  「助かった、少しだがみんなでなんか温かいもんでも食ってくれや」

   黒光りする皮の手袋を脱いだ 幅広の分厚い金指輪が光る手で、何枚かの一万円札を差し出した.

  「いえ、通りがかっただけですから結構です」

  今までにも 「気持ちだけですが」 お金を出されたことはあったが、受け取ったことは無かった.

  「ま、そう言わんで」
  折った札を私のポケットにねじ込み、まだ少し尻を振り気味にベンツは行ってしまった.
  ポケットから出てきた一万円札は、5枚あった.


  缶コーヒーを買いに立ち寄ったコンビニでも私たちは無言でしたが、レジの脇に小さな犬の付いた透明な
  募金箱を見つけ 後ろを振り返れば二人とも頷いて ..
  (ちなみに後ろの二人は 番頭さんと次席さん 註 : うちの事務所は役職が自己申告制なので (笑  )

  小さく折り直し 一枚ずつ募金箱に入っていく一万円札に、缶コーヒーの入った袋を差し出しながら驚いた
  目付きの店員をあとに外に出れば、少し風も出てきて吹き付ける雪.


  「今日はもう帰りますか」
   番頭さんの声に、なにやら呪縛から解き放たれたような心地で 缶のコーヒーを啜ったのでした.
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        それから ..            

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月 8日(金)18時43分53秒
編集済
                                           - 03/2/14 掲載 -


   スキー、スノボー、スノーモービル などなどのファンで、毎冬ごとに信州の山々を思い出して
   下さっておられる あなた.

   滑るのも走るのも苦手だが、冬山の風情が好きで .. と、雪の信濃路を目指して下さる あなた.

   何となく .. 気が付いたら信州だった、と おっしゃる あなた.


  もし 床屋さんの回転看板さながらに、変な彩りのジープを先頭のグリーンのパジェロとの二台連れ、また
  は それに同じグリーンのデリカワゴンの三台連れキャラバンを見かけたら、どうぞライトかクラクション
  でサインを下さい.


  あ、近かったなら 変なオッさんの三人連れで、なかに童顔に無精ヒゲって珍妙な奴が混じっていたなら
  「こ~だ~い」って 呼んでもいいですよ.

   おり良くお会いできたなら、極上の「信州蕎麦」ご馳走しますからねえ ^^ ..


   ま、有名ゲレンデやホテル、ロッジへの路では ほとんど心配はないのですがね.
   長い渋滞に業を煮やして脇道などに入り込んだ車が、スタックなどの餌食になりやすいのですよ.

    夏に通られた事があっても、雪では全く状況が変わってしまいますからね.
    どぞ、十分お気を付けて、楽しい冬山を堪能してください. ^^ ..
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        いやぁ ..            

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 7月 1日(金)23時03分9秒
編集済
                                          - 03/07/18 掲載 -


  写真、暫く見入っているうちに 過ぎた刻へとタイムスリップしてしまいました .. (笑

 私が知っていたその一帯は昔から穀倉地帯と呼ばれ、折々に穀類や多くの種類の野菜果物がふんだんに収穫
 出来る土地柄でありました.

 背高く伸びた緑の茎の林の間を目の前に立ち塞がる幅広の葉を掻き分け、実の善し悪しなど判ろうはずもなく
 手当たり次第にせがんで もぎ取らせたトウモロコシ畑.

 形こそ不揃いで、赤と緑と斑に威張りながら鬼瓦のように反り返り 子供の両手には余るほどの大きさで、枝
 を支える添え木すらをも撓らせて、鈴なりのトマトの畑.

 メダカ、オタマジャクシ、小鮒、ザリガニ、アメンボウに蛍の幼虫などが 幼なかった私の両手でも掬えるほ
 ど、それらの影が濃い 浅い小川に囲まれていたし 足の下で蠢く小さなドジョウに驚き、しっかり水路に尻餅
 を衝くのも 毎度のことでした.


  姉達の夏休が中盤に掛かったころ、恒例の葉書が来るのでした.
  バスで二時間ほど山に向かった、遠縁の農家からなのでしたが ..

  「ザリガニが待っています、リュックとバスケットを持って畑に遊びに来なさい .. 」

   毎年、ハガキの役者は替わるのですが ..
   多分にひょうきんな仕草で、ハサミを振り上げたザリガニの絵はがきは 笑うと目が無くなってしまう
   爺様のお手製でした.


 二.三日を畑や小川で過ごしたお土産は、姉たちのリュックとバスケットに トウモロコシ、トマトやネクタリ
 ンや 野菜のもろもろ ..

 私の小さなリュックには、子供乍らに欲張った結果として口から半分も顔を出した太いトウモロコシが
 2本と、これも大人の握り拳を一回り大きくしたほどのネクタリンが2個

 一本と一個は ばば様(母方の祖母)の分、残りの一個と一本はもちろん私の分なのですが、五歳の肩には
 それらしく、しっかり食い込んだリュックの紐でした.


   広縁に、両の足をぶらぶらさせる私の後ろで
  「広大が持ってきてくれたトウモロコシが、一番美味しいよ」

   小皿に実を取り分けニコニコと私に差し出すばば様を見上げながら、何となく大役を果たし終えたような
   満足めいたものを覚えて、ばば様のこの言葉が好きでした.


  が、いま思えば爺様の家で見慣れた軽トラが茄子や胡瓜、果物を沢山積み、夏のうち何回も里の裏口に止まっ
 ていたことを思い出します.

  十五年ほど前 何とかタウン開発とかですっかり農地、山林を失った爺様は、失意したように間もなく
  他界していったことでした.


 トウモロコシ畑も、トマトや胡瓜がぶら下がっていた畑も、ゲンゴロウ、ザリガニの小川も ..
 整然と区画され、縦横に走る綺麗に舗装された道路のそれぞれには 洒落た形の信号機が下がり、おもちゃ箱
 から取り出して並べたような様々な形と取々の色を競う小さな住宅群.


 一本に纏められ 区画の端に追いやられた水路は、ひとまたぎ程の両側を背丈のコンクリート護岸に変わり、
 青黒くべったりこびりついた不気味なノロの底を移動する僅かな流れには 命のちのカケラもありませんでした ..




                                          - 同日 追記 -

  あ、思い出したので ..
  私が ばば様の家で寝起きするようになった時には、既に大小7匹の猫が居ましてね .

  毛並み、血筋等は全く気にもならないばば様の意向で、迷い猫、捨て猫達をドンドン運び込んでくる、姉
  妹・従姉妹達は猫を上手に教育すると言う 不思議な特技を持っており.. (笑

  それぞれの個性といえば
  上手にトウモロコシを囓る 両後足の膝から下だけが黒い 白猫.

  長いうどんを上手に啜り 何処か「寅さん」を彷彿とさせる チャトラ.
  ほうれん草のお浸しを見ると 妙に身体をくねらせ すり寄よってねだるベジタリアンで、左右の耳が交互の
  白黒横縞になった ヘンナやつ.

  家族が風呂へ入るたび いちいち風呂場まで先導し、湯船の蓋を取るのを待ちかね 浴槽の縁を支えに後ろ足
  で立ち上がり前足で湯加減を確かめた後、納得顔で茶の間へ引き上げてゆく ネズトラ.

  秋刀魚の骨を嫌い、マグロしか食わない片目だけパンダの猫.
  囓りはしないのですが、前足の間にしっかり挟込み 日がな一日ペロペロと 柿をなめ続ける猫.


   癖、食べ物の好み、お気に入りの場所など まるでバラバラで、隣に寝そべる猫の事にさえ無頓着な
   この軍団ではあるりました.


  毎年 初夏のこの一時期だけは誰が指揮を執るともなく、産み増えた十数匹が同じ行動を取るようになり
  これがまた 甚だ迷惑なのでありまして ..

  ご自身でも愛猫家と自負されるあなたには、既にお察しのことと思いますが ..
  ええ、持ち込んで来るのですよ、得意げに 自分の獲物を .. ねえ ..


  ま、それが山吹色の小判であったり、国家機密に位する程の精密技術で作られた板垣さんの肖像画でもあれ
  ば、さして問題はないのですが .. (笑


  「キャーーーッ」、「ヒィーーーーーー」、「ウワーーーーッ」、「ウエ~ッ」、
  「ギャア・・」 などなど・・

  踏み込んだ部屋の真ん中を、あたふたと逃げまどう小蛇、少し距離を置き 時おり前足で蛇をかまいながら
  俺の獲物は「どうだ!」と言わんばかりに、私を見上げるほうれん草好きの 白黒のあの猫.


  座卓の下に伸ばした足をサワサワと登ってくる感覚に 慌て立ち上がれば、ジーンズのミニスカートも
  股間近くに両鎌を高く掲げ、下腹を反らせ気味に羽を半開き.
  臨戦態勢を十分の構えは、十五㎝もある大カマキリ ..

   「ギョヴエ゛ア゛~~~~.. 」


   悲鳴の中でも中の妹の声は色々な音が調合されており、意味こそ不明ではあるが一段とすさまじく (笑
   駆け回る妹が歓喜の踊りでも見えるのだろうか、後を追って一緒に走り回る蕎麦好きの 三毛のあいつ.


 ま 初夏の時期、昼夜関わりなく日に二度や三度 庭から表の通りにまで響き渡る悲鳴に、ご近所からは物笑い
 と言う意味も込めて「お化け屋敷」(多分今でも)と、呼ばれておりました ..

   いつの間にか近所に住む従姉妹達までが風呂は実家で入るようになり ..、勿論 猫を洗濯するのが
   目的だったのですが.

   私が小学校に入った年には 猫の数もだいぶ増えておりましてね、起きられぬ朝、私の布団を引き剥がす
   のが役目の次姉は、背中に2匹、腹側に3匹、足の周りに4匹、尻の後ろに1匹 ..

    が、布団を剥がされた猫たちは、一層私に寄り添うことになるわけで

     「あー、また広大が猫佃煮になってるー」

       大きな叫び声が、目覚ましでした .. (笑




     懐かしい時間を、ありがと ..
      スパ さん




        - 長崎のスパイクさんより戴いた写真のついた書中見舞いのカキコへ 返礼でした -
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        ゴボウ と ナマズ ..           

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月26日(日)18時39分6秒
編集済
                                         -03/3/2 掲載 -



  「ハイ、ごめんなんしょ」
    風除室のドアを後ろ向きに背負った籠で押し開け、見慣れた顔があらわれた .

  「しった、今日はなんぼかあったけ様だで」
     誰に云うともなく、その顔は勝手知ったる我が家のようにホールの真ん中に両手の下げ籠と
    背負ってきた籠をおろした .

   以前 水仙を背負って売りに来た、二つほど先の街で花農家をしていると言う ばば様である.

  花屋や近くのスーパーに切り花や小物の鉢花を卸しており 孫が車で花を運んで来るとき同乗して、自分は
  気ままに町中で花の背負い売りをしているのだと聞いたが、水仙を買って以来時々顔を見せるようになり

  あれこれと勝手に事務所の花達を取り替えたり 鉢の置き場所を換えたりしては 楽しそうにお茶を飲んで
  帰って行く ばば様である.

  お陰で机と機械類と男所帯の殺風景な事務所にも花が絶えなくなり、それなりの趣(?) も出てきたようで
  はあるが ..


   花瓶や水盤の水を換え、枯れかけた葉や萎んだ花を鉢から取り除いたり、日当たりの場所にある鉢たちの
   位置を変えたり ..  と、いつものように一回り花達の手入れをすまし、湯沸し場から手を拭きながら出
   てきた ばば様は

  「あ、しょっちょさんよ」
    番頭さんの背中に声を掛けた.  が、立ったまま机の書類を弄っている番頭さんは気が付かない.

  「ん、なんでしょ?」
    呼ばれたので、顔を上げれば

  「あで、あっはっはっ ..、しょっちょさんだでば」
    振り返ったばば様は “ お前じゃないよ” といった顔で、手を拭いた手拭いで姉さん被りをしながら
    笑った.

  「へ? 」

  「茶っ葉、なぐぅねーでなぁ (お茶の葉が無くなるよ)」
    向き直り、番頭さんの背中に なお声を掛けるばば様で.

  気が付いた次席さんが私を指さし、身振りでばば様に教えている.


  「あで?、こっちゃのメゴイすと(人) がしょっちょさんげ?」
    納得しかねるといった具合の語調で、私の方に向き直った.

  「ま、まあ ..  ホレ、こんなんヒゲだって生えちょるし」
    私は苦笑しながら照れ隠しに、童顔隠しの無精ヒゲをつまんで見せた.

  「あで、あっはっはっ.. そうげやぁ .. じゃも ヒゲなんぞ大根やゴボズ(ごぼう)にも生えちょるばぁ
   気の利いたナマズなんぞ 八本も十本も生えちょっとぞぉ、あっはっはっ 」

  「・・・」


   バタン!、ファイルの落ちた音に続き カタカタカタ ..  あまり聞き慣れない音で.

  見れば ばば様の向こうで片手で机の端をつかみ、もう片方でドラフター(製図板・製図器)の縁を掴んだ
  番頭さんの背中が細かく震えている.

  その振動がドラフターのスケールを揺らしている音らしい、 カタカタカタ.. 続いている.
  次席さんはと見れば、これも机に突っ伏して肩を震わせて ..

  「あっはっはっはっ」
    我慢も限界をこえたらしく、番頭さんが大声で笑い出した.
    むろん、それに応えるように次席さんも.


  「ゴボウにナマズかあ .. 」
    ま、まあね、そりゃあ立派に生え揃った「何とかヒゲ」なんて物じゃないし、中途半端に伸びた
    無精ヒゲはカッコの良し悪し以前のモノだけれど ..

  「ハイ、ごめんなんしょ」
     スタスタと駐車場を横切り帰っていくばば様の籠を 窓から見送くる私の後ろで

   「あっはっはっはっ...」
   「けっけっけっけっ...」

     二人の笑い声は まだ続いて.



       ああぁ.. 明日は仕事サボって床屋へ行ってくるかあ..
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        午後の来訪者は ..          

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月25日(土)19時13分38秒
編集済
                                          - 03/5/27 掲載 -


   剣客でした.

    ええ、勿論仕事の打合せに来られたのですが.

  が、何時の間にやらすっかりその方のペースに巻き込まれ、話はもっぱら「剣道」の話に終始してしまい.
  伺った限りではかなりの腕前との事で .. あ、範士の資格をお持ちだと言っておられました.


  で、「その道」には全く疎いわたぐじは、いろいろな専門知識を伝授いただくことになりまして.

  「間合い」とは 相手との距離を指すもので、そこから出てきた言葉であること.
  公式試合でも 二刀(二刀流) を使うことが許されている と言うこと.

  小手を打つときは、普通は右小手と決まっている とか.
  でも 相手が上段のように手元が上がっているときには、左小手を打ってもよい と言うこと.

  「小手(こて)」とは、「ひじと手首の間」をいうとか.
  その「小手」にはめる防具を「籠手(こて)」と言い、つまり「籠手」を「小手」にはめるのだ とか.

  だからコテコテになっちゃうなあ とか、あ、両手にはめるから コテコテコテコテ かあ とか.


  「小手」に対して「大手(おおで)」とは、肩先から指先までのことを指す とか.
  「大手を広げる」とか「大手を振る」と言う言葉は、ここから出ている とか ..


  「公式試合でも - メーン (面)!- と言って胴を打っても反則にはならないのさ、ま 人間性を疑われるだ
   ろうけどな」 と言いながら、その人は

  「時々その手を使うのよ、アッハッハッ」 そうも言って豪快に笑われた. ^^; ..


  甘いモノには目がないと言いつつ二個ずつ乗った和菓子の皿を四枚もお代わりし、志野の大ぶりな茶碗で
  運ばれてきた新茶を美味そうにほされ、お帰りになりました.

  「酒は日本酒に限る!」
  そうも話しておられましたから、そっちの方も豪傑なのでしょうねえ. きっと ..

   ええ、二刀流の ..
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        さびしかった こと ..          

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月20日(月)21時27分29秒
編集済
                                      - 12/17 掲載 (02年のこと) -


   「ほう、今日はツイてる」

   正面玄関近くの駐車場に入ったとたん 目の前を出て行こうとしている車がいた.
   隣が障害者用のその駐車スペースは、一般用では一番玄関に近い.

   いつ来ても駐車スペース探しに この玄関に近い第一から第二、第三と 幾つかの駐車場をウロウロするの
   が常のこの中央官庁である.

   後続の羨ましそうなドライバーを横目に 二度ばかり切り返し所定の位置に落ち着いた車の中で、持参し
   た書類の確認を始めたとき隣のクラウンにエンジンが掛かり、スペースが空いたが一般用のその場所には
   待ってましたとばかりに次ぎの車が頭を入れ、また満車に戻った.

  「この人も 今日はツイていたな」
   腹で苦笑しながら書類の点検を続ければ、隣に入った人も同じように書類を取り出しパラパラとチェック
   を始めた様子.


  「ビーッ ビビーッ」
   最近は街中でもあまり聞くことが少なくなったクラクションが間近で響き、心臓がドキンとなった.

   5台分ある障害者用スペースの前に止まったまま 一杯になっているその場所に行く宛を失い当惑してい
   るらしいドライバーを、焦れた後続車が急かせているらしい.

   そう言えば、普段障害者用のスペースに障害者使用表示のない車が多く駐車している事を思いだした.

  「まったくマナーの無いドライバーが多いんだから」
   舌打ちをする思いでしたが.


   先ほど隣に入った車が
  「ブッブッブッ」
   クラクションを断続させ、尚も思案顔のドライバーに何やら手真似で合図を送り、入ったばかりのその場
   所から出て行った.


   「ああ .. 」

   障害者用の駐車スペースの前で、ホッとした顔のドライバーは二度三度出ていった車の後ろに会釈をし、
   ぎこちなく隣の空いたスペースに 車椅子のステッカーを付けた車を入れてきた.


   出向いた私の用件は、無事に済んだのですが ..
   黙って駐車スペースを譲って行った人と、人を非難する事はしても思い遣ることの出来ない自分を改めて
   見せつけられ、なんとも寂しい思いで帰りのハンドルを握ったことでした.



         - この掲載についてもレス 沢山のメルを戴きありがとうございました、
          いづれも私の深い処へと仕舞わせていただきました -
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       テント屋さん、ありがと .. その後 .. ^^; ..       

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月16日(木)20時18分30秒
編集済
                                - 4/27 掲載 (これも多分 03年だったと) -



    「46○○の白いクラウン ここは駐車禁止です、至急車を移動してください」
    「 ○○21の赤い軽車両 ここは駐車できません、すぐ移動してください」

     少し離れたところから突然 よく透るスピーカーの声がした.
     声の主は言わずと知れた その色合いから「 パンダ 」の異名をもつパトカーで.


   随分とご無沙汰の友人を歩道に見つけ 思わず車を止めて追いかけた結果が立ち話となりり、
   ついつい話し込んでしまった私で 禁止帯は承知での駐車でしたから、スピーカーの声に慌てて
   車に戻ろうと友人に別れを告げた とたん止めてある私の車辺りで

    「そこの55○○の. そこの ..... そこの車 .. 」
     どうやら私の車に警告をしているらしい、が なにやらスピーカーが口ごもっていた.

   小走りに戻り、運転席のドアを開けたとたん 後ろから来たそのスピーカーが私の脇で止まった.

    「運転手さん!」
     パンダの窓が開き、ヘルメットが声を掛けてきた.

    「はあ」
     ドアの取手に手を掛けたまま、ギクリとして わだぐじ.
     仕方なく閉めたドアを背に、パトカーに向き直った.

    「・・・・・」
     ヘルメットの声がよく聞き取れなかった私が、まどに顔を寄せれば

    「何という車ですかね、これ?」
     ふたたびヘルメットが聞いてきた.

    「はあ、5J.. あ、三菱のジープです」
    「ふ~ん、ジープ .. ねえ .. 」

    声を掛けたヘルメットは、ハンドルを握っている奥のもう一人のヘルメットと 顔を見合わせた.

    「あの、なにか .. 」

    「ちょっと切符を切りますから、後ろに乗ってください」
     ヘルメットから そんな言葉が今にも出てくるのではないかと、少々口ごもりながら私.

    「いや、いいんです、どもお手数でした」
     小さく敬礼をしたヘルメットは動きだし、また私の前に駐車している車のナンバーを呼ばわりながら
     行ってしまった.


     「がっはっはっは」
      いきなり笑い声がし 車を挟んだ歩道のうえに、別れたはずの友人が立っていた.

     「これお前だったのか、がっはっは .. それにしてもまあ なんちゅう車だ、がっはっは .. 」
     「ま、まあ .. 幌を無くされてしまってなあ」
      すっかり弁解をする気力を無くしてしまった私は 苦笑いをするほかなかった.

    赤ランプを回転させたパンダに呼び止められた私を心配して 引き返してくれたらしい友人は

     「じゃ、またなあ .. がっはっは .. 」
      高笑いをしながら商店街の雑踏の中を去っていった.


   まあ そりゃあね、色に文句は言わないって約束だったし .. テント屋 さん ..
   お陰で寒くはなかったし 雨にも濡れずに済んではいるし、いまさら何を言う筋合いではないけど ..
   それにしても .. 赤・青・白のゼブラ模様の幌ジープなんて.


   「ねえ広大さん、これでクルクル回ったら床屋の看板だね」

   事務所の駐車場、荷台に首を突っ込み 荷物の整理をしていた私の背を叩き そう云った隣のおっさんは
   ベソをかきそうな私の顔に気が付いたらしく そそくさと行ってしまった.


     いえね、私もそうは思っていたのですよ、こりゃあ 床屋の看板だあ ..
     でもねえ、人の口から聞かされると きますねえ .. グサッと ..  ええ .. ^^; ..




                - 6月10日掲載「テント屋さんありがと」の後日談でありました -
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        クリスマス・ローズ ..            

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月14日(火)03時16分31秒
編集済
                                - 12/26 掲載 (えと多分 03年だったかと) -



   「今年で5回目になるな、今日と違って寒い日だったことを憶えているよ」

  サイフォンから移した珈琲を私の前に押し寄越し花屋の主人であるその友人は、歩道にまで張り出して並べ
  られた色とりどりのサイネリアや、ころあい良く色付いたポインセチアの鉢にチラリと目をやった.

  某道場で知り合い、少し年上でわりと無口なこの友人とは もう七八年の付き合いである.
  空になったコヒウォーマーのスイッチを切り、友人は話を続けた.


  「いつもより寒かった年で12月も20日も過ぎたころだったな、男の客が来てね」

   30代後半ぐらいの顔つきは見えたが、少しだけ白髪の混じった髪のその男性は
  「12月26日に花束を作って欲しい」 そう注文したのですと.


  およそ男性が花束を頼むとき、具体的な花の名を指定することなどは滅多に無いそうで「キレイなやつで」
  とか、「華やかに」と云うような注文の仕方が普通なのだそうである.

  「まあ それはそれなりに、作る側としては結構難しいんだけれどね」
   そう云って友人はコヒのクリームボトルを私に奨めた.


   普通男性客からの注文はそんな具合であったから、その客から
  「クリスマスローズをメインにして下さい」 そう注文を付けられた時には、正直驚いたと言う.


  「ま、時節柄注文される花束に花の名が上がるとすればバラやカーネーションなど、良く知られた花が
   普通だしね」

  確かにこの季節の花で名前も知られてはいるが、花の姿までは あまり知られていないクリスマスローズ.
  花も切花ではないうえにハッキリ言って可愛らしいけれど地味な花で、その友人もクリスマスローズで花束
  などと言う注文を受けたのは初めてだと話した.

  でもそこはプロのプライドを賭けてどうにか試行錯誤ながらも作り上げ いざ指定の26日、昼近くになっ
  て現れた客に緊張しつつも花束を渡した.

   その男性は受け取った花束をしげしげと見詰めていたが、そのうち嗚咽はじめたのですと.
   実際 泣くほど気に入らなかったのかと、友人は慌ててしまったという.

   「少し変えて」 客にそう云われ 目の前で作り変えたことも、無いわけじゃなかったしね.
    視線を足元に落とし、友人は苦笑した.



   少し落ち着いたその男性は
  「今日は妻の誕生日で、命日なので .. 」

   けれど自分はどうも悔やみの花は好かない、そこで本で調べたところ12月26日の誕生花が
   クリスマスローズ、しかもなるほど妻のイメージに似ていて ..

   さらに こみ上げてくる涙を拭うでもなく、申し訳でもするかの様に話し始めたのだという.


  「小さいし大人しくて地味で、特に綺麗でも魅力的でもない女だったから .. 一緒にいる時はただ鬱陶し
   いばかりで他の女の所に入り浸ったりして、全く見向きもしなかった」

  「そんな時に急に妻が倒れたって病院からの連絡で .. 行ってみれば .. 」
  「よくもって後2ヶ月、早く見つけてさえいれば助からない癌じゃなかったって .. 説明で .. 」

  「しかも腹には5ヶ月にもなる双子の子供が .. 家を開けっ放しにしてオレ そんなコトも知らなくて」


  「殺されてもかまわないって気持ちで病室に行ったのにアイツ、オレを見て笑ったんです 嬉しそうに ..
   来てくれないかと思ってたから嬉しい、あなた風邪は大丈夫?  なんて云いやがって ..
   3ヶ月も前の風邪なんて自分でも忘れてたのに」

  「アイツは何ひとつオレを責めなかったんです、まえに子供を中絶した時もオレの方がアイツに慰められて
   た .. アイツのが、アイツの方がずっとずっと辛かったはずなのにな .. 考えたらどんなに辛い時でも
   オレの前ではいつも笑ってたんです、あの女 .. あなたが傍に居てくれてそれだけで十分 なんて云い
   やがって .. 」

  「初めて会った頃から一途な女だった、オレそんなことも忘れてた.長く居ると見えなくなるんだよな ..
   結婚した頃はあんなにアイツを求めたのに、いつの間にか女に見えなくなってたんだ」

  「気付くのが遅すぎたんだ、腹を立てたり疎ましく思えたのも ちゃんとアイツが居るからだってのに ..
   他の女に走ったってアイツが居なきゃ不倫にもならねえ .. けどさ それが、その女が愛ってワケじゃ
   無かったんだ」

  「オレ結局 この花が好きだったんだよ、地味で大人しいだけで綺麗でもなし魅力なんて判んなかったけ
   ど、いつも傍に居てくれて一緒にケンカしてくれた アイツが .. 」



   「そりゃあ始めはね、何でこんな話を友達でもない俺に .. それも店先で .. ってさ」
   「でもなあ .. きっと誰かに聞いて貰いたかったんだよな、うん 俺そのときそう思ったんだ」

   「思わず貰い泣きしちゃってさ、店先で」
   「奥でコヒでもどぞ、なんて訳のわかんないこと云ってたな 俺 .. ハハ ..」

    友人は大きなガラス戸越しに足早に過ぎてゆく人通りを目で追い、照れたように話し終えた.


   その奥さんは奇跡的に1年以上生き続け、自分の誕生日に亡くなったのだそうで
  「その人、この5年間12月になると26日には必ずクリスマスローズの注文に来てね」
  「何でも双子の男の子と あと3歳になる女の子を養子にとって、大変だけど幸なんだって言ってた」


   「いけねえ、急がないとそろそろ取りに来るな」


     冷めてしまった珈琲を入れ替えると言う友人を断り 通りに出ては来たが、あても無く
     無性に駆け出したい衝動を押さえていた私でした.
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        カモ にはエサを..              

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月14日(火)00時02分57秒
編集済
                                          - 12/14 掲載 -
 

  「居るかい?」 
   後ろ向きに、尻で押し開けるドアの隙間から声がした .

  駐車場で所在なさげに日向ぼっこをしている私の車の前を歩いてきても、そういう挨拶で入ってくるのが
  この人である .

  気が付いてドアを開けた次席さんに
  「ヨッ!」
    声をかけ向き直った人は、二枚の濡れ手拭いで覆った盆に載せた平型の大ザルを右手に捧げ、左手には
    片手鍋を持っていた .

  「見様見真似よ」
   と云い、気が向けばご近所にも配る この人が打つ蕎麦はなかなかの評判で

  「道楽だからな .. あっはっはっ」
   と笑うが、蕎麦打ちのネンキは 私の年齢を超えている .

  「昼、差し入れだ」
   そう言ってくれる黒い色など一筋も見当たらぬ見事な白髪のこの人は、夜昼の別なく毎度の乱入に手こず
   りながらも何かしら気が合い、怒る気にもなれない蕎麦が好きな隣家のレトリーバの飼い主であり、私を
   カモだと信じ切っている ヘボ(?) な麻雀キチでもある .


  「まだ熱いんだ」
   出汁の入った片手鍋を次席さんに渡し、

  「二升五合だ」
   と私には、直径が70㎝もあるだろうか その大ザルを差し出した .

  「おっ、ありがたい!」
   PCの前から立ち上がて来た番頭さんも手を添え、大ザルを打合せ用のテーブルに安置した .

  「消化よくねえから鍋とザルは残しとけよ」
   小鉢を取りに湯沸室に向かう私に廊下の端から真顔でそう言い残し

  「ご馳走様です」
   交互に聞こえる番頭さんと次席さんの声に

  「足りるよな、よかったら蕎麦湯取りに来いよ 」 
   三人の蕎麦好きを知っており 念を押すそんな声で応え、帰って行った .


  夫唱婦随とでも言うのだろうか、あの白髪頭が打つ蕎麦もさることながら奥さんが作る汁もまた格別で、カ
  ツオ・昆布の和出汁に鳥皮の出汁を少し加えるのだと聞いたことがあった .

   が、ザル一杯に行儀良く小分に並べられた白い蕎麦を掬いながら 気が付いた .

  「蕎麦が出来た」
   と電話が来るときは、大抵の場合麻雀のお誘いである .

  つまり蕎麦をエサにカモ(メンバーとも云う) の招集なのであるが、今日は麻雀のマの字も言わなかった .

  「智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ、兎角に人の世は住み憎い .. 」
   草枕の一節が、麻雀対戦時の口癖でもある 白髪なのですが ..

  「またやったな .. 」 
   思い当たるのは、無くて七癖人それぞれに癖はある様ですがあの白髪の夫婦もご多分に漏れず、喧嘩にな
   ると白髪は 黙々と蕎麦を打ち、奥さんは黙々と出汁を作りだす 妙な癖の夫婦であり、カッカとして打つ
   蕎麦は時にとんでもない量になり、結果 ご近所の食卓が潤うことになる訳で .. (笑)


  試合(麻雀とも云う) 中の戯言に、裕福に育った御曹司のなれの果て(ご自分でおっしゃるので)と、どこぞ
  の街の花柳界で名をはせた名花との大恋愛の末の熱愛夫婦なのだ と聞かされたことがあり、ゴールデンレ
  トリーバを子供代わりに可愛がる おっさんとおばはん なのです.


   あ、あだぐじもお世話になっております .. はい、レトリーバのついで にですけれど ..
 
 
 
 
 

        テント屋さん、ありがと ..         

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月10日(金)18時44分25秒
編集済
                                           - 2/13 掲載 -
 

  「カッコのいい幌も出来てきたことだし、一回りして来ましょうか?」
  窓越しに駐車場を眺めきながら、可笑しさを堪えきれないと言った様子で番頭さんが言った.

  「そうですねえ、暫く振りにいいですねえ」
  この人も笑い出したいのを無理に堪えているらしく、妙なしかめっ面をして次席さん.

  「そうだね .. 」
  二人の横顔をチラッと見やって、私 .


  普段なら仕事を放り出し 出掛ける話には率先して賛成する私なのですが、今日は何となく気が重い.
  「一回り」となれば、誰がどの車に乗るかが決まっているからだ.


  近年 テレビ・雑誌などで囃し立てる自然派志向とかに刺激され、春は新緑、夏は山川のOutdoor、秋は温泉
  にモミジ、この季節にはスキー・スノボー客で賑わうこの辺りなのです.

  が しかし、人が集まればアクシデントは付きもの.
  この季節うちの事務所の中で「一回り」とは「山道を一回り」のことであり、寒さと雪に閉じ込められて
  すっかり萎縮してしまった体力と気力のリフレッシュを兼ね、雪の山道でスタックなど立ち往生している車
  等があれば、救援を兼ねたドライブなのである.

  別に何処からの依頼があって出掛けるわけでも無く、自分たちの気分転換を兼ねて出掛けて行けば 雪にハ
  ンドルを取られたり、ブレーキワークを誤って道路脇に突っ込んだり 飛び込んだり.

  それでも周囲に人が居る場所で 地元の人なら誰でも気さくに手を貸してくれるのですが、誰もが周囲に気
  を配るほど余裕の無い運転を強いられるような山道や、長い渋滞に業を煮やし よく知りもしない脇道に
  迂回路を求めて入り込んだあげく道路わきの藪に飛び込んでしまった車など、身動きの取れなくなった車が
  必ず一台や二台あるのが、この時期なのです.

   大抵の場合 そういう車はチェーンはおろか スノータイヤすら履いていない車が多いのには 毎度のこと
   ながら、考えさせられますねえ ..


  道路を大きく外れ 急傾斜の手前にかろうじて引っ掛かっている車、膝下まで埋もれる雪を掻き分けドアを
  開ければ短いスカートにハイヒールといった出で立ちのお嬢さん達で、急ブレーキのあげくスリップして林
  の中に飛び込んだ車、などなど ..

  それは簡単に何人かの人手で押し出せるものから、相当な太い立木の幹をアンカーに滑車を使わないと引き
  出すことが出来ない状態のものまで、下手をすればこちらまでもが巻き添えになりかねない様な際どい状況
  であったりと、救援する方でもかなりスリリングな場合もあるのです ..

 

  さて話を戻せば、私が「山行き」にあまり気乗になれない理由が 目の前の駐車場にあるのです.

  仕事柄と云いますか、個人的にも高級乗用車などには根っから縁の無い私で それでも車は必需品ですか
  ら、今は懐かしい三菱J-50(通称5Jと呼ばれるジープ) が常の愛車で、あとは仕事用の種々の計測器が積み
  込んであり、事務所業務用に共用使用のロングパジェロ.


  でもお気に入りの5Jは 以前友人にせがまれて貸した折、幌をケースごと紛失され素っ裸なのです.

  ですが 人とは付き合いを良くしておくもので、昨年すえ知り合いのテント屋さんが
  「余った端切れのシートで良ければ協力するよ、色柄に文句を言わないってことであればね」

  「縫製の手間(賃)だけで良いからさ」
    嬉しい話ではありました.

  ディラーで取り寄せれば結構な価格のするものですから、何とはなく微かな不安はありましたが
  「宜しくう .. 」 思わず、そう言ってしまった私だったのです.


  で昨夕 可愛い5Jは、赤・青・グレイが交互のストライプになった幌をまとい、何やら申し訳無さそうに
  かつ 恥ずかしげに .. 駐車場の定位置に戻って来たのでした.

  「特にね ドアのストライプがいいでしょ .. 苦労したねえ」
  センス良かろうと、自慢げに語りながらキーを返してくれるテント屋さんの声が フッと遠くなり ..


    「ガチャン!」
     コヒカップに注ぎかけていた、今年 二つ目のサイフォンを取り落としてしまった.


       まあ、「好意」、コウイ ですから ..  ねえ ..
 
 
 
 
 

       ハーブの香り ..                

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月10日(金)01時34分47秒
編集済
   
                                         - 8/20 掲載 - 
 
 
  「○○さんをご紹介します、宜しく」と 裏書きのある友人の名刺を持ち 昼近くの来客は、濃淡が細い縦の
  ストライプでシックな紺のスーツが良くお似合いのご婦人でした.

  30才も少し出たぐらいとお見受けしたそのご婦人は
  「所長です」 番頭さんの案内に立ち上がった私の顔をいささか不審げに一瞥し、取り繕うような笑みを
   浮かべてから勧めた応接コーナーのソファに浅く掛け、スカートを直しながら

  「どうぞ宜しく」
   形の良い薄型の鞄から、角が丸い小型の名刺を差し出した.


  野草とも思える花を着けた草々のカラフルな写真が載ったカタログを次々とテーブルに並べ、初めの印象と
  はかなり違い良く動くその口元からは、浴びせかけるような迫力で薬品の名称でもあるかの様な言葉が次々
  と繰り出された.

  「どんな色を混ぜ合わせたら、こんな色になるのだろう .. 」
  目の前近くまで迫り離れする滑らかに回転する唇の その色をぼんやり考えたとたん ..

  「で、御社の事務所にも是非いかがでしょう」
  「きっと 社員の皆様にも良い効果が期待できると思いますが」

  「はあ .. 」
  相変わらずの無精髭を撫でながら機関銃の銃口の様な その口元に気を取られていた私は、思わず番頭さん
  次席さんの机を見やったのでしたが ..

   女史の迫力に気圧されて狼狽える私を ニヤニヤしながらも知らん顔の二人で ..


  「まあ .. 」
   口ごもる私に

  「今日はサンプルを置かせていただき、後日またお話を .. 」
   スーツにしては短めのスカートから伸びた健康そうな足で活発げに駐車場に乗り入れた赤い車から筒状に
   なった幾つかの見本を持ち込み

  「○○さんにもご愛顧いただいております」
   友人の名前を繰り返し告げて、そのご婦人は帰って行かれた.


   植物の香りで気分を変え、諸々の効果が期待出来るのだとおっしゃって居られましたが ..
   ご存じの事とは思いますが、下にいただいたカタログの一部を写してみました.


     【ユーカリ】 : 鋭い香り.心を平静にします.頭の働きを明晰にし、集中力を高めてくれます.

      【ローズ】 : 甘くフローラル調の深い香り.心を明るく、ストレスを緩和.催淫効果あり.

      【バジル】 : 甘くスパイシーな香り.頭をすっきりさせ、気分を高揚.

 【ブラックペッパー】 : スパイシーで鋭い香り、刺激作用が強くストレスが溜まっている時に.

   【シダーウッド】 : ウッディーな香り.緊張を落ち着かせ不安な気持ちをほぐす.

     【シナモン】 : 甘みのあるスパイシーで鋭い香り.疲れた時や元気づけに.

    【サイプレス】 : 森林の香り.怒りやイライラした気持ちを柔らげます.

    【フェンネル】 : 甘みのある香り、暖かみがあり、勇気を与えてる.

    【ゼラニウム】 : ローズに似た甘みのある香り.不安な気持ちを癒す.

    【ジャスミン】 : 甘く優雅なフローラルの香り.心を穏やかにし自信を与えます.

   【レモングラス】 : 爽やかな柑橘系.少し鋭い香り、緊張やイライラに.

      【ライム】 : 甘く鋭い香り.不安な気持ちを活気づけ、疲れた気分をリフレッシュ.

      【パイン】 : やわらかい清々しい森林の香り.疲れた気分や感情的に弱くなった時.

      【セージ】 : くっきりとしたハーブ調の香り.気分が優れない時.

  【サンダルウッド】 : ウッディ調の上品な香り.緊張や不安を静めます.

      【タイム】 : 甘みのあるハッキリとしたハーブ調の香り.集中力 精神力を強める.


       アロマセラピー と言うんですと .. で、あなたも お一ついかがでしょ ..
 
 
 
 

        ふうせん ..               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月 3日(金)23時04分27秒
編集済
                                          - 8/29 掲載 -

   「あのねえ .. ふうせんが ほしいの .. 」

  裏通りに面する胸高の竹垣に設えた木戸を、躊躇いがちに押し開けて入って来たのは 肩までにはもう少し
  の時が必要な、でも可愛くリボンが結ばれた三つ編みおさげの ご婦人で ..

  髪のリボンに似た黄色の小さなバッグを下げて 見覚えのある濃く緑の制服は、裏通りを少し隔てた幼稚園
  のもの でした.


  広縁でガラス戸を開けていた私と合ってしまった視線も突然で、無精の髭面にいっとき気後れでもしたかの
  様子でしたが 奮い起こした勇気がさせるのか、微かに頬を紅潮させて少し離れたところで足を止めた
  ご婦人は、おずおずと そう話しかけてきました.

  「風船?」
  聞き返した私に、入ってきた木戸の方を半身ごと回して指差して かのご婦人は繰り返した.

  「ふうせん、ほしいの .. 」

  ときおり乱入してくる隣家のレトリーバに ガム替わりにしゃぶられ、いまにも千切れんばかりの無惨な姿
  となった縁先のサンダルをつっかけた 私の先を行くご婦人は なお続けて

  「ママにあげるの 」 と、おっしゃる.


  裏木戸に向いた窓からは 植え込みの陰に見えなかったのですが、通りに出てみればなるほど ..
  棕櫚の縄で組まれた中太の竹垣の升目を編むように 延び放題に延びた風船葛の緑の茎は、その細く長い花
  軸の先に二つ三つかたまって着けた小さな真白い花に混じり、これも葉と見まごう同じ明るい緑で ゴルフ
  ボールほどの風船が、あちこちに提がっていたのでした.


   低いところの手近な一つを 愛おしそうにそっと小さな手のひらに受け、「これ」と言うように
   そのご婦人は、私を見上げたのです.


  スキップしながら遠ざかる、二重ほどに真白な花と風船をレイにして首から提げたご婦人は 少し先で
  振り返り、手を振ってから石塀の角を曲り見えなくなった.

   背伸びで垣根の葛をたぐった足下に あっけなく切れた片方のサンダルを提げた手で木戸を押し掛け
   何気なく去っていった角を見れば ぴょこんと黄色いリボンが顔を出し、また小さく手を振り消えた.


    「風船葛(ふうせんかづら)」

   その名前を知ったのは、後日 友人に教えられてのことでした.




  ※ なお、ずれずれ草 4月20日掲載の「ふうせんとかざ車」は、この後日談であります.
 

        いまさら ..              

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月 3日(金)21時47分11秒
編集済
                                           - 7/22 掲載 -


   「月とわだぐじ」 - がぐや゛殿(?) -


    折に触れ ゴミ箱(当掲示板) にお立ち寄り下さいます あなた様
     おついでとは申せ、まことに まことに、ありがとうございます.

   それに致しましても、某所やチャット等ではご存じの皆様よりまで多々のご不審を買っている
   わだぐじめ でありますので、この時間はちょっぴりの申し訳であります.


   早くに両親と別れ 母方のばば様に育てられた私でしたが、折に触れ両親を恋しがる わだぐじに

   「家には男の子が居ないでしょ、だからお月様にお願いして広大をもらったのよ」
    ばば様はそう語り、両親を問えば

   「広大をお家まで送って来てくれたお月様のお使いよ、広大がちやんといい子にしているから、
    もうお月様へ帰ったの」

   「広大はお月様の子なのですよ」
    そんな問い掛けを幾度繰り返し、おなじ話を何度聞かされたことか ..


    いつの間にか そんなコトを信じ切っていたのでしょうねえ ..
    ひごと日暮れ時にはメソメソするのが日課の子でしたが、ばば様や叔母たちに手を引かれ
    薄暮の空に懸かった月に出会えば、泣き止む子になっていました.


   そんな幼少期でしたから、「かぐや姫」の話を知った時にはビックリしましたねえ .. ホントに (笑

   低学年でも既に小学生でありましたから、「月」が星であり 地球を回る「衛星」であるくらいのコトは
   うすうすでも知っては居ましたけど、でも「月の姫の話」を知ってからは そうだったのか .. なんて
   妙な得心があり、月の姫に付いては憑かれた様にいろいろの本を読み漁ったコトでした.


    が、あれやこれやとヤジを入れてくる 姉妹達に

     「あの姫には月からの迎えが来たのに、広大には来ない」
       と 言えば

     「もっと広大が大きくなってからね」
       初めのうちは、どの姉に聞いても たしかそんな説得でしたが ..

     「お月様も忙しいのよ」
       半年 一年と 時間の経過とともに、その答えも変わり.

     「お月様も、アホは要らないんじゃあないの?」
       はい、ついにはこんな言葉が 姉妹達の宣戦布告となり ..

     そりゃあ あーた、そう言われれば 悲しくはありましたけれど ..

    でも、なんたってこっちは「男」ですからねえ、小なりとはいえ「男」のメンツをかけて取っ組み合い
    の大立ち回り なんてのも、もち やりましたって .. (笑

    ま まあ .. 戦況はと言えば ..
    なにせ敵は多勢 あだじは一人、大抵は手取り足取りと組み敷かれ 馬乗りになったアイツ達は、男の額
    にブチュッと敗者の印(?)を押してさっさと逃げて行くってのが 毎度の結末ではありましたが ^^;..


    オットうだうだ長くなりましたが、まあそんな経緯のもと自分だけの「月」を持つことが「願い」で
    いまだに 夢うつつ .. 「月の子」のまんまの、おっさんではあります.. (笑

      あ、少しは判って頂けました? .. 「月」に拘るわけ .. (笑





     余談ではありますが、仏間の長押にかかる三枚の男たちの写真を見ながら

     「あの時から うちの女たちは男の子産むのを止めてしまった」
      そんな話を、ばば様がしてくれた事がありました.

      大叔父達なのですが、一人は「それ」が開始されてから間もなく ..
      二人は、終戦を目前にしたある日 南の空へと旅立ったまま帰っては来ない と ..

      「神風特別攻撃隊」

       写真の中の文字は、あの日から60年を経た今でも そうはっきり読むことができますし
       この大叔父たちも 月の人になっているのだと、そう思っています.
.
.
.
.
 

        ジャリン! ..               

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 6月 2日(木)01時40分58秒
編集済
                                           - 11/27 掲載 -


  とつぜん 窓のガラス越しにその音が響いたのは ..

 過日の現場出張で負傷(タンコブとも言う)し、額に貼られたカット絆も痛々しく資料を読みあさる次席さんと
 のってきたのか、しきりとマウスの動きが良くCADを相手に奮闘する番頭さんに 私はといえば、似た様な

 文面に大小の写真が並んだカタログを詰めこみ、束となって否応なしに毎日送り付けられて来る新種の建材や
 種々のダイレクトメルのチェックにも飽き、ペーパーナイフを投げ出した両腕で天井を突くほどに伸びをしな
 がら膝頭で机を蹴られた椅子が半回転し、壁の書架と向き合った そんな時でした.


 鳴ったのは一度きりでしたが 何とはなくその音は耳に記憶がある様な気もし、また 忘れかけていた 言いし
 れぬ懐かしさを思い出させる響きでも ありました.

 腰から上がぼかしになった 内側の薄い茶色のアクリルドアから外を覗いた次席さんが、私を手で招いた.
 三時を過ぎ幾分赤味を増した薄い陽がポーチを大きく覆う庇から斜めに差し、それでも眩しさに一瞬まばたい
 た眼の先、

  墨染めの法衣の肩までに陽を背負い、シャラシャラと小気味良く鳴る降魔の金具を頂部にいただき
  足下より笠の端にまで届くほどの錫杖を 白い手甲に隠した左手で小さく打ち振る 目深な饅頭笠が
  屋外に面して二重になった 同じアクリルドアの外にあった.


  思いも掛けぬ姿の人でした.

 まじまじと見ている内に なにやら鼻の奥がツンとなり、目頭は湿っぽく ..
 それは昨春、彼方へと旅立って逝った恩ある人が訪ね来てくれた様な錯覚がさせたものであり、叶うはずも
 無いのですが、無性に逢いたいと思っていた矢先のことでも ありましたから ..


 我に返り、お布施をと あわてて尻のポケットに手をやったが、その手にはあるべき手触りが無かった.
 また、財布を忘れてきたらしい.


 四つに折った札を白紙で包み 頭を低く差し出せば、雲水は読経の声を途切れさせるコトも無く 首から下げら
 れた頭陀の袋を差し出して、私の手でそれに納めた.

 綿の芯でも入っているのだろうか、指の太さ程もある笠を支える白い紐が結ばれた顎先に 一目笠の内を覗き
 たくて仕方がなかったが それも禁じられているコトを思い出し、ただ低く声は小さいが ハッキリ聞き取れる
 読経のそれが 遠くから呼びかけられる懐かしい声でもあるかの様な思いで聞きつ、顔を上げることが出来ま
 せんでした.


  雲水托鉢の行は、無言の行である.
  修行の僧に声を掛けることも許されなければ、僧より読経以外の発声を聞くこともない.

 あきらめて 饅頭笠の正面から背がドアに突くほど後ろに下がり、俯いたたまま朗々と流れ 消えてゆく読経を
 聞いていました.


 やがて錫杖の石突きで強く床を突き、もう一度 ジャリン! 大きく金具の音を聞かせてから右の片手で合掌し
 一礼すると背負っていた陽を正面に受け回し、風とも言えぬほどの風を法衣の裾に遊ばせながら、饅頭笠は
 去って行きました.



  机には戻ったが、
 「はいコヒ、熱いですよ!」 番頭さんにマグカップを差し出されるまで ぼんやりしていたことでした.

 お布施を立て替えさせられた次席さんは
 「明日で良いですよ」と笑いながら、早帰りだと言い退社していった.


  ことさら寺社が多いこの街でも、ついぞ托鉢僧など見かけたことは無かった.

  そうに違いない ..
  先の月、旅だって逝ったばば様が 彼の地に無事着いたとの知らせを持って来てくれたのだと ..

   ええ .. 今日の来訪者は、法衣の飛脚でした ..


     それにしても、肝心な時に役に立たない財布だこと ..
     ま、忘れるなんてコトは 度々でもあるのですが ..   ^^; ..




  饅頭笠とは網代笠(あじろがさ)のことで、形が田舎饅頭に似ているので 私の里ではそう呼ばれていました
  子供の頃、里では時折見掛けた托鉢の僧姿でしたが .. いや、ビックリしました ..
 

          居ごごち ..              

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 5月31日(火)00時39分1秒
編集済
                                          - 4/25 掲載 -


   コ~ン ..
    コ~ン ..

  雲版の乾いた音に 軽く疲れのある半眼をひとしきり強く閉じ、醒め切れぬ視線をのろのろと上げれば
  尻の下で体温に温もった 回廊の分厚い樫板の感触も 覚えられるようになり ..

  吹き上げられた小さな黄色の花弁が いちめん座位を取り巻き、半跏した膝に、肩に、頭上に、も ..
  ゆっくり両の脚をのばし、そのまま大の字になってみる.

  庭から九尺ほどの高さにある回廊は、低めの欄干とほぼ同じ高さにまで伸びた 山吹とレンギョウの鮮やか
  な黄色に囲まれており、なに変わることのない この春です.


  住まいが近く、幼い頃から遊び慣れた境内でしたが
  「叱っても 叱っても、叱り間に合わない」と 住職を感心(?)させた、幼稚でも後を絶たぬ腕白の悪戯に

   - 境内を跳ね回る兎の耳を青と赤に塗り分けたのも ..  本堂の生花の花だけを全部摘み取ったのも ..
    梅の古木に下がる名句の短冊にへのへのもへじを書いたのも ..  池の鯉に風船を付けたのも ..
    脇侍の観音様にハムサンドを持たせたのも ..   食べ残した串ダンゴを御本尊の香炉に立てて
    置いたのも ..  露座のお地蔵様にヒゲを書いたのも .. その他とっても多数 .. ^^; .. -

  数々の叱責とお仕置きの座禅で、度々(しょっちゅうとも 言う) お世話になった 本堂を一周する長い回廊
  の裏手のこの場所を、改めて自分の場所と決めたのは 11才、春のこと でした ..

   以来、折々の喜怒哀楽をココで笑い、棄て、嘆き、泣き ..  

  寝そべって本を読み、鳥の声を覚えたのもココでしたし、眠ってしまえば住職や大黒さん お嬢さん達が
  毛布やタオルケットを掛けてくれるのも常であり、悪ガキ仲間も沢山居ましたが何故かココがお気に入り
  でした.


    もう随分、長い時が過ぎました.

   学校と就職でいっときのご無沙汰はありましたが、いま又 この場所を自分の居場所と勝手に決めている
   私なのです ..


      数日前、春らしい暖かな風に吹かれて お仕置きではない座禅の二時間でした ..


 
  
 

        重陽の ..             

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 5月30日(月)04時21分23秒
編集済
                                           - 9/9 掲載 -


  節句に付いてのウンチク等はネットの上に山ほどサイトがありますので、私がいい加減な説明などを致しま
  すと 顰蹙を買うことになりかねませんし、ここは自重なのですが ..


  あなたがお住まいの処でも「重陽」に因んだしきたりや行事など、いろいろな祭事があるのでしょうね ..
  私はですねえ、里に呼ばれまして菊の酒を頂いてきたのですよ ..

  どんな由来だったのか 子供の頃年寄りから聞かされた話も、今ではすっかっかり いい加減な記憶になって
  しまいましたけれど、この日の里では それが決まりになっておりましてね ..

  一族の男達が里に集められ 神主さんのお祓いを受けた後、菊の酒を戴く習わしなのですが、一族の男とは
  言っても私を除いて他の11人は、皆お婿さんでして ..  ^^; ..

  むろん嫁に行った女達も沢山居りますが、家を継いで貰うのには はやはり男でなければと ガンコなまでに
  頑なで、とっても元気な(?) ばば様の意向で迎えられた お婿さん達なのです.


  この日ばかりは「仕事を休み、勤めを休んでも出席するように」とは これまで続いてきた里の習慣なので
  他所の土地から来られて 初めてこの日を迎えることになったお婿さんの中には、「へえ」なんて驚いてい
  たお婿さんも一人や二人では無かったとか .. 奥さんとなった女達が話していたことでした.


   そうですねえ、思うに
   男子に恵まれない里の せめても縁付いた男達につつがなく過ごしてほしい と願う、女系一族の
   哀れにも切なる祈り で、でもあるのでしょうかねえ ..


      薄く菊の色を移して溢れる香りと、しなやかに盃を躍る花びらと .. 


     ばば様の作る菊の酒は絶品でしたが ..
     それもこの重陽から、二度と口にすることが 出来なくなりました ..


 
 
 

        あじさい ..           

 投稿者: 広大  投稿日:2005年 5月30日(月)02時55分13秒
編集済
                                             - 7/24 掲載 -

 

  壁のホワイトボードに 工事監理の修正工程を書き込んでいた 私は

  「ウォッホン .. ウェッヘン .. 」
   番頭さんの妙な咳払いに 振り返った.


  風除室のドアを支えた番頭さんの腕の下をかいくぐるり、姿を見せたのは小さなご婦人でした.

  さらに窓の外を見ろと、目で合図をする番頭さんで ..
  外には駐車場に入らず、路肩に駐車した白い乗用車からこちらに会釈する男女が見えた.

  両耳の上の方で丸く束ねられた髪には 綺麗なレースで飾られたワンピースの、それと同じ色の長く下がっ
  たリボンをヒラヒラとさせて そのご婦人は ..


  ホールを挟んで離れた机の私と次席さんを交互に見比べて居ましたが、ようやく納得したように椅子に着い
  た私の前に来て言ったのです.

  「こんにちは 」
  小さなご婦人は、思ったよりハッキリした声でした.

  「や、やあ .. 」
  狼狽え 思わず見上げた番頭さんが、怖い顔になったので

  「あ、こんにちは」
  私は慌てて、言葉をなおした.

  「これ、ありがとう」
  ご婦人は、青の濃淡で幅広織りが格子模様のハンカチを差し出したのです.

  しっかり糊が効き アイロンで伸されたハンカチには何かを包んであるらしく、幾分かの厚みをもっている
  様に思えました.




   気が付くと駐車場が道路に面した処に、真っ赤な長靴の小さな雨傘がいた.

   道路から事務所までの少しの距離が駐車場になっており、隣家との境である両側は 片や背の低い
   ブロックに鉄筋が洒落た模様の塀で、反対側は二段ほど石積の上を竹で編まれた垣根になっている.

   いずれの側からも 盛りの花たちが延ばせるだけの枝を張り、通りからは まるで花に埋もれた事務所の
   ように見えるのでした.

   何とはなしに見ていると、雨傘は少しづつ隣家との塀に沿って動いているようであり だんだん事務所に
   近づいて来る.

   首と肩で支えられているらしい目深の雨傘は 小止みになった雨にも頓着無く、垣根から枝を張り咲き競
   っている花達に すっかり気を取られている様子で、天蓋の様に頭上で沢山の淡いピンクを付けたムクゲ

   を仰いだり、背伸びをしては桔梗の四角く膨らんだ蕾に指を伸ばしてみたり、屈み込んでは低い石積の上
   一面に咲き広がる松葉ボタンの雨露を 指ではじいてみたり ..

   花たちの前を行きつ戻りつする赤い長靴と 時折クルリと回る雨傘でしたが、立った尻を机に預けた私は
   飽かずに眺めていたことでした.

   そのうち赤い長靴は、大輪紫陽花の前から動かなくなってしまいました.

   ま、気になった私は 青と青紫の大輪紫陽花を二つ三つ隣家より貰いうけ、友人から届いたばかりで机に
   あったネクタリンを一つ、例のハンカチに包み

   「赤い花も青い花も大好き」と言う 見ず知らずの真っ赤な長靴に持たせたのでした.

     それが たぶん火曜日、小雨の昼を僅かに過ぎた頃 ..




  小さなご婦人から返されたハンカチからは 写真が一枚出てきて、病室らしい白いベッドで あの大輪紫陽花
  の花瓶を横に 目の前に居る小さなご婦人と高齢のご婦人が、にこやかに写って居られました.

  「お婆さんのベットを 花でいっぱいにしてあげたい」と話す この小さなご婦人は、机に散乱した仕事の
  小道具やPC等に興味津々と言った具合で 矢継ぎ早の質問を放ち ..

  「あのね、とっても 美味しかったの」
  素直に告げるクルクルと良く動く大きな目に、笑いながら私の手からハンカチを受け取った番頭さんは
  奥からネクタリンを三個ばかりの包みを作ってきましたが、一枚のハンカチでは包みきれず 一個は
  番頭さんのハンカチでした. 


  ハンカチの包を胸に抱えた肩までの長いピンクのリボンは、事務所の外で深々と頭を下げるご両親らしい
  二人と 白い車で去って行きました.

    応接室へのご案内を固辞され、そのお二方と外で立ち話をしていた 番頭さんによると
    遠方から、お年寄りのお見舞いに来られた ご近所の親戚の方らしい こと.
    小さなご婦人は、おんとし五歳であること も ..

     まあ、お若いご婦人の来訪には ドキドキしますなあ .. ^^; ..
 
 


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     てがみ ..
                                          - 8/22 掲載 -


   「その節は .. 」 との ご挨拶で

   手に馴染む和紙の封筒には、それもおなじ白い幾筋もの漉き斑が涼しげな模様を作る和紙に 鮮やかな
   墨痕であり、郷愁にも似た墨の香りに添えられて届いた小包は、組立てれば木枠の中をクルクル金魚が
   泳ぎだした 走馬灯でした.


    同封の別紙には 幼い手筆で「ありがとう」と、あり

   読み進めば いつぞや遠方からお年寄りを御見舞いにこられ、紫陽花を持たせてあげた幼い赤い長靴と
   そのご両親からと判ったことでした.

   悔しくもご老体はその後他界されたと知れましたが、生前 娘が届けた紫陽花にことのほか喜ばれた と
   記されてあり、走馬灯は ご老体と娘から心ばかりの .. と、結んでありました.


     縁先に柔らかな光条を投げ 華麗に踊る金魚たち ..

         庭先の薄明かりのなか 小さな傘がクルリと廻ったのは 

        気のせい だったのでしょうねえ ..  きっと .. 



    
 

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